『チェンソーマン』若い視聴者からなぜ熱狂的な支持? 中山竜監督が追求するアニメ表現

 デンジの見せ方の変化は、デンジの状況や心情を、若い子に身近なものとして感じてもらうための配慮だろう。

 本作は、死んだ父親の多額の借金を背負わされたデンジが、デビルハンターとしてトマトの悪魔を狩る場面から始まるのだが、デンジは腎臓を売り、右目を売り、金玉を片方売るという過酷な状況に、すでに追い込まれている。収入はヤクザに借金として持っていかれ、水道代と他の所にしている借金を祓うと、お金はほとんど残らず、食パンしか食べられない。

 デンジは自分が死んだ後は、ポチタに自分の死体を乗っ取ってもらい「普通の暮らしをして、普通の死に方をしてほしい」と願っていた。彼はただ、「普通の生活」がしたいだけなのだが、そんな願いすら叶わずヤクザに殺されてしまう。死の直前にポチタと契約したデンジは「チェンソーの悪魔」の力を手に入れ復活する。悪魔の力を望むあまり、ゾンビに変えられた人間たちの姿を見たデンジは「何でこいつらは十分恵まれてんのに、もっといい生活を望んだ?」と思う。だがすぐに「俺も同じか」「ポチタがいる幸せだけじゃ満足できなくて、もっといい生活を夢に見たんだ」と我が身を振り返る。

『チェンソーマン』第2話「東京到着」予告&先行カット公開 デンジは早川アキを紹介される

テレビ東京系ほかにて放送中のTVアニメ『チェンソーマン』第2話の予告映像と先行カットが公開された。   『少年ジャンプ+』…

 そして「そうか、みんな夢みちまうんだよなあ」「じゃあ、悪いことじゃあねえ」「悪いことじゃあねえけど」「邪魔すんなら」「死ね!」と言って、チェンソーマンに変身して戦う。物語の流れは漫画と同じだが、シリアスなトーンでアニメ化されているからこそ「普通の生活がしたい」というデンジの心情が、切実なものとして伝わってくる。

 アニメ版『チェンソーマン』には様々な見どころがあるが、1番の魅力はデンジを通して、現代の男の子の物語を描いていることだろう。悪魔が跋扈する日本という舞台設定こそ荒唐無稽だが、食事や性欲に関連した日常描写はリアルで、デンジが抱える問題の根底に貧困と格差にあることを繰り返し描いている。だからこそ本作は、若い視聴者から熱狂的な支持を受けているのだろう。

 『チェンソーマン』には、男の子の夢と絶望が詰まっている。デンジがこれから何を獲得し、何を失っていくのか、注目である。

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、毎週火曜24:00〜放送
Amazon Prime Videoにて、毎週火曜25:00〜最速配信
各プラットフォームにて、毎週水曜25:00〜見逃し配信
キャスト:戸谷菊之介(デンジ)、井澤詩織(ポチタ)、楠木ともり(マキマ)、坂田将吾(早川アキ)、ファイルーズあい(パワー)、伊瀬茉莉也(姫野)、高橋花林(東山コベニ)、八代拓(荒井ヒロカズ)、津田健次郎(岸辺)、内田真礼(天使の悪魔)、花江夏樹(サメの魔人)、内田夕夜(暴力の魔人)、後藤沙緒里(蜘蛛の悪魔)、大地葉(沢渡アカネ)、濱野大輝(サムライソード)
原作:藤本タツキ(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:中山竜
脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:杉山和隆
アクションディレクター:吉原達矢
チーフ演出:中園真登
悪魔デザイン:押山清高
美術監督:竹田悠介
色彩設計:中野尚美
画面設計:宮原洋平
音楽:牛尾憲輔
オープニング・テーマ:米津玄師「KICK BACK」
挿入歌:マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ:
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー:瀬下恵介
制作:MAPPA
©藤本タツキ/集英社・MAPPA
公式サイト:https://chainsawman.dog/
公式Twitter:@CHAINSAWMAN_PR

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アニメシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる