『エルピス』“正しさの狂気”に呑まれているのは視聴者自身か 長澤まさみの眩しさと危うさ

『エルピス』が描く“正しさの狂気”

狂っているのは、同級生たちか若手スタッフか

エルピスー希望、あるいは災いー

「正義のために行動するって、めっちゃ気持ちいいっすよね」

 八頭尾山での取材調査を終えた岸本はそう浮き立っていた。そして、上に企画を潰されたときは「正しいことがしたいなあ」と心の中でため息をついた。空っぽに生きていた岸本でさえ、いつの間にか正しさに魅入られはじめている。

 でも、その正しさとは何に基づくものなのか。本当に自分たちが今見ているものは正しいものなのか。それは、誰一人として証明などできない。浅川と岸本がつくった映像を見て正義感に酔う若手スタッフは、この国の希望のようにも見えれば、簡単に陰謀論に流される愚かな大衆にも見える。

エルピスー希望、あるいは災いー

 いじめで死んだ友人のことなどすっかり忘れて、披露宴で「PERFECT HUMAN」を踊る同級生たちと、意義も未来も感じられない仕事にスポイルされていたところに報道の使命というお題目を得て心踊る若手スタッフたち。どちらが狂っているのか、僕にはまだ判断できない。

 きっと僕たち自身も試されている。マスコミへの自己批判を臆さず盛り込み、安倍元首相の映像を使用するなど、このドラマは攻めの姿勢を崩さない。そんな制作者の胆力に胸がすく一方で、どこかタブーに切り込むこと自体を面白がっている自分に気づく。

エルピスー希望、あるいは災いー

 その好奇心を否定はしない。でもそれは、センセーショナルなものが見たいという、しばしば侮蔑の対象になりがちなワイドショー的野次馬根性とどれだけ違いがあるのか。この正しさの狂気に呑まれているのは、誰よりも僕たち自身なのかもしれない。

 だからこそ見極めよう、パンドラの箱の最後に残ったエルピスの正体を。それが、あらゆることを無批判に呑み込まないための最初の抵抗だ。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)、稲垣護(クリエイティブプロデュース)
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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