『エルピス』が2022年に放送された宿命 渡辺あやの脚本を通して“人間”を知るために
今のところセクハラとパワハラの権化のような『フライデーボンボン』チーフプロデューサーの村井(岡部たかし)だが、彼が報道班を降りてバラエティ班にやってきたのにはよっぽどの事情がありそうで、この先、何かやってくれそうな気がしてならない。
連続殺人事件の疑いをかけられ死刑囚となった松本(片岡正二郎)に対する、検察側と弁護側の意見の食い違い、当時のマスコミに煽られた「世論」、そして、いちばん側で彼を見ていた元・家出少女のさくら(三浦透子)の証言が、まさに「人間を、物事を、一意義的に断じることを疑え」というこの作品の主題を表している。
「そりゃあ、14歳の小娘に、50歳の男の正体なんてわかるもんじゃないのかもしれない」
「私の知らない面が、おじさんにはまだまだあったのかもしれない。でも、それでも……私の誕生日を祝ってくれた、その同じ日に、おじさんが他の女の子を殺してたなんて、あり得ないと思うんですよ。どう考えても絶対あり得ない……としか言えないんですよ」
いま、自分の目に見えている「それ」が、全貌ではない。常にこのことを疑うことが、「人間を知る」「世界を知る」ということにつながるのではないだろうか。
無人島で暮らすわけじゃなし、社会の一員として生きていくからには、他者を理解することは必要不可欠だ。「みんなそれぞれに違って、それぞれの事情を抱えている」ということを理解し、対話を重ねていかねばならない。そして、個人がその「社会」の中で、自分の幸福を追求するためには「自分を知る」ということも第一歩なのではないか。
恵那と拓朗に与えられたミッション。それは、松本の冤罪を晴らすことと同時に、「自分を知る」ことでもある。いま、彼らが苦しみにもがく姿は、「自己理解」の作業の最中であると言えるのかもしれない。白と黒で断じることのできない世の中で生きていく彼らが、この先どんな答えを見つけ出していくのか、見守っていきたい。
■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁ほか
音楽:大友良英
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv