映画ファン垂涎のラインナップ 世界の映画祭を俯瞰できる釜山国際映画祭

世界の映画祭を俯瞰できる釜山国際映画祭

 10月5日より約10日間にわたり行われていた第27回釜山国際映画祭が閉幕した。過去2回はパンデミックのため縮小していたが、3年ぶりに観客やプレスを入れた完全復活となった今年の映画祭は、アジアを代表する映画祭として遜色のないイベントになっていた。その理由を、いくつかの国際映画祭と比較しながら検証してみたい。

2011年完成の立派な施設がメイン会場

 釜山国際映画祭(BIFF)のメイン会場は、市内中心部より地下鉄で20分程度の海沿いにある海雲台(ヘウンデ)地区。ビーチ沿いには外資系高級ホテルからビジネスホテル、カップル向けホテルまで各種宿泊施設が並ぶ。海雲台ビーチから地下鉄で3駅の国際展示場とショッピング施設が並ぶ地区に、釜山シネマセンターがある。2011年に施行された立派な建物の吹き抜け部分が屋外ステージとなり、開閉会式、屋外映画上映、多彩なゲストを招いたオープントークが行われる。建物内には、大小4つのシアターがあり、プレスセンターやゲストラウンジも入居し、この一区画で映画祭のほぼ全ての機能を集約している。シネマセンターの向かいにある商業施設に入居するシネコン2軒の18スクリーンを映画祭で使用する。近隣にはKOFIC(韓国映画振興委員会)の建物、東西大学のソヒャン・アート・センター、放送局のKNNがあり、映画祭に施設を貸し出している。映画祭のメイン会場が海雲台に移る以前に使われていた市内中心部の劇場では「コミュニティBIFF」が行われていた。映画祭会期中に、メイン会場から徒歩10分程度の国際展示場でコンテンツマーケットも行われているため、世界各国のバイヤーやセラーが集まっている。映画祭の上映に使用されたスクリーン数は、プレスと業界向け試写を含めて合計7劇場30スクリーン。9時から22時近くまで上映が続き、連休を含んだ週末の上映チケットは、ほぼ売り切れていた。

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 映画祭というと真っ先に名前が挙がるカンヌ国際映画祭は、南仏カンヌの海岸沿いにレッドカーペットを含む大きなコンベンション施設を持つ。そこに入る劇場と近隣施設を使い上映が行われている。ヴェネチア国際映画祭は本島から離れたリド島に映画祭施設があり、近隣のホテルでパーティや行事が行われる。ベルリン国際映画祭も、トロント国際映画祭も同様の上映施設を持つ。地元密着型のサンダンス映画祭は、映画祭事務局の建物以外はシネコンや高校の体育館などを使って上映が行われるが、来場者の多くは地元民で、映画業界関係者も小さなスキーリゾートに宿泊しているので街をあげての映画祭といった一体感がある。むやみにハコモノを作る政策には賛成できないが、都市型映画祭は施設が整っていることが第一条件のようにも思う。

16万人が来場、映画ファンを育てる映画祭

 釜山国際映画祭の公式発表によると、全入場者数は161,145人で、座席占有率は74%。コミュニティBIFFにも17,000名以上の来場があった。上映作品数は242本、71カ国から集まった。例えば、5月に南仏で行われるカンヌ国際映画祭は一般チケット販売がなく、映画業界と地元の映画ファン向けで延べ80,000人が来場、89カ国からの参加者が集まった(カンヌ映画祭公式発表)。ヴェネチア国際映画祭は、60,477枚のチケットを一般販売、ジャーナリスト2,195名を含む、12,000名が参加登録を行った。今年の釜山映画祭は、韓国と日本の登壇者が多かったが、ゲスト来場上映は3件のオンラインも含め304件。映画を観た直後に監督やキャストの話が聞けるGV(ゲスト・ビジット=舞台挨拶+Q&Aのようなイベント)が頻繁に行われ、客席から鋭い質問が飛んでくるのも釜山映画祭の大きな特徴として知られている。若年層の観客が多いのも特徴。平日の上映には学校行事として映画祭に参加する高校生の姿も見られ、映画祭が街や市民の間に根付いていることを実感した。

 釜山国際映画祭には、3本目以上のアジア出身監督作品のジソク部門、若手映画作家の登竜門的な意味あいのニューカレンツ部門のコンペティションのほか、ショーケース的な部門も充実している。韓国作品の商業映画やアートハウス映画をパノラマ部門で、インディペンデント映画をヴィジョン部門で紹介し、世界の映画祭で注目を集めた作品を上映するアイコンズ部門、アジア以外の国の作品を上映するワールドシネマ部門などに分類されている。スペシャル・プログラムとして、日本の若手監督による作品を集めた部門、今年のアジア映画人賞を受賞したトニー・レオン自ら選んだ6作品の上映もあった。

トニー・レオン ©Busan International Film Festival
トニー・レオン ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子 トニー・レオン ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子 ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子
『コネクト(原題)』イベントの様子
『コネクト(原題)』Courtesy of Busan International Film Festival
『Yonder(原題)』©Busan International Film Festival
『Yonder(原題)
『今日は少し辛いかもしれない』Courtesy of Busan International Film Festival
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トニー・レオン ©Busan International Film Festival
トニー・レオン ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子 トニー・レオン ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子 ©Busan International Film Festival
『コネクト(原題)』イベントの様子
『コネクト(原題)』イベントの様子
『コネクト(原題)』Courtesy of Busan International Film Festival
『Yonder(原題)』©Busan International Film Festival
『Yonder(原題)
『今日は少し辛いかもしれない』Courtesy of Busan International Film Festival
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 また、昨今の韓国コンテンツの攻勢を表すような、オンスクリーン部門では、国内外のOTT(ストリーミング)作品を3~6話程度まとめて上映する部門もある。三池崇史監督がディズニープラスとスタジオ・ドラゴンと組んだ『コネクト(原題)』(12月配信予定)や、Netflixのチョン・ヨビン主演作『グリッチ ―青い閃光の記憶―』(配信中)、国内OTTのTVINGのシン・ハギュンとハン・ジミンが主演する『Yonder(原題)』、ハン・ソッキュとキム・ソヒョン主演の料理ドラマ『今日は少し辛いかもしれない』(2023年1月より「WATCHA」にて日本配信予定)などの上映が行われた。同様の上映形態はカンヌ国際映画祭での『イルマ・ヴェップ』(東京国際映画祭でも上映)、ヴェネチア国際映画祭ではラース・フォン・トリアー監督の『The Kingdom Exodus(英題)』(BIFFでも上映、11月27日よりMUBIで配信)、ニコラス・ウィンディング・レフン監督のNetflix作品『Copenhagen Cowboy(原題)』が上映されている。韓国作品に限らず、映画監督がドラマシリーズを手がけるのは昨今のエンタテインメントの潮流で、映画祭が取り込むのは当然の流れだろう。通常あまり大きなスクリーンで観る機会がないOTT作品を配信よりも早く劇場で観ることができるが、続きが気になってもしばらく観られないという残念な点もある。

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