『ベイビー・ブローカー』は“そして母になる”物語 是枝裕和が語る役者・スタッフへの感謝

是枝監督に聞く『ベイビー・ブローカー』

 2018年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』。その“姉妹”作品と言っても過言ではない内容となっているのが、是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』だ。両作品に共通するのは、「家族とは何か?」という問い。韓国に実際に存在する“赤ちゃんポスト”を題材に、子供を売買するベイビー・ブローカー、子供を手放した母親、そして彼らを追う警察の姿がそれぞれの思惑を映しながら描かれていく。

 キャストには、ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナ、イ・ジウン(IU)、イ・ジュヨンらが名を連ね、『パラサイト 半地下の家族』などポン・ジュノ作品を手掛けてきたホン・ギョンピョが撮影監督を担当するなど、韓国映画界の錚々たる人材が揃った本作。是枝監督はどんな思いで彼らと向き合い物語を構築していったのか。じっくりと話を聞いた。

※インタビューの中で物語の結末に一部触れています。

“そして母になる”物語

ーー“ベイビー・ブローカー”のサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)、子供を赤ちゃんポストに預けたソヨン(イ・ジウン)、彼らを追いかける二人の刑事(ペ・ドゥナ、イ・ジュヨン)と魅力的なキャラクターが複数名登場します。それぞれの人物はどんな形で作り上げていったのでしょうか?

是枝裕和(以下、是枝):誰かを主役にしようと思いながら物語を作ることはほとんどないんです。今回は取材を重ねながらプロットを脚本にしていく中で、表を赤ん坊を売るブローカーたちの話、裏を母親になることを諦めた、ならない選択をした女性の話にしようと考えていました。そこから自然とキャラクターも作り上げていった感じです。

ーー“そして母になる”物語でもありますよね。

是枝:そうそう(笑)。だから、タイトルだけ見ればブローカーの話ではあるんだけど、一番に考えていたのは、いかにして“そして母になる”かというところ。その点は、キャスト、スタッフにも事前に共有していました。

ーーカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞に輝いたソン・ガンホをはじめ、役者陣はみな素晴らしかったのはもちろんなのですが、“そして母になる”刑事スジン役のペ・ドゥナが一番印象に残りました。

是枝:それは2時間の物語の中で一番変わるのがスジンだからでしょう。そもそもこの物語はベイビーボックスの手前に置かれていた赤ちゃんを、スジンがブローカーを捕まえるためにボックスに入れるところから始まるわけです。物語の冒頭、スジンは子供をベイビーボックスに預けたソヨンについて「捨てるなら産むなよ」という言葉を放ちますが、最終的にその考えを改める。彼女が物語の中で、何に突き動かされ、変化していくのか。印象に残ってほしいなと思っていたので、そう言っていただけてうれしいですね。ペ・ドゥナはほとんどのシーンが車の中で、何気ない食事のシーンや、ちょっとした表情の変化で、キャラクターの変化を見せる必要があったのですが、それも見事に演じてくれました。彼女でなければ成立しなかったと思っています。

ーー映画冒頭のシーンから雨の切り取り方が非常に美しかったです。全編を通して、“水”が印象的で、『パラサイト 半地下の家族』との共通点も感じましたが、撮影監督のホン・ギョンピョとの仕事はいかがでしたか?

是枝裕和(以下、是枝):ホンさんが手掛けた作品を観ていて感じていたのは、“闇”を捉えるのが非常にうまいカメラマンであるということ。フィルムからデジタルになっても、光と影で描くという設計がきちんとできているんですよね。最初はスケジュール的に難しいということだったのですが、ポン・ジュノ監督の力添えもあって引き受けてくれることになりました。彼なしでは成立しなかったと改めて思います。また、港町の釜山から物語が始まることもあり、水を印象的に撮りたいという思いはありました。ホンさんも水が好きだしね。

ーー水の使い方で印象的だったのは、予告にも登場する“洗車”のシーンでした。作品を象徴するシーンでもあり、非常に美しかったです。

是枝:実はあの洗車のシーンは最初からイメージしていたわけではないんです。サンヒョンたちはクリーニング屋でもあるから、車に服を積んでいる。どこかでその服に着替える形にしたいなと思ったときに、ただ雨に濡れたとかよりも、車ごと濡れた方が面白いかと途中で思いついて。周到な準備をしていたわけでもないのに、ホンさんがとてもうまく撮ってくれたのが大きかったですね。

ーー洗車のシーンもそうですが、サンヒョン一行も、彼らを追うスジンとイの刑事コンビたちも会話の多くは車の中、あるいは観覧車などの密室空間で展開されていきます。そのあたりは何か意識されていたのでしょうか?

是枝:最初に考えたのが、「ベイビー」「ボックス」「ブローカー」の3つ。タイトルから「ボックス」は漏れましたが、「ボックス=箱」は本作のテーマのひとつにしていました。なので、話が動くときは密室空間というのは意識していた部分でもあります。

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