第79回ヴェネチア国際映画祭受賞結果を総括 米アカデミー賞に与える影響も増加の傾向に

第79回ヴェネチア映画祭受賞結果を総括

 『シチズンフォー スノーデンの暴露』で第87回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したローラ・ポイトラス監督の新作ドキュメンタリー『All the Beauty and the Bloodshed(原題)』が金獅子賞を受賞して幕を下ろした第79回ヴェネチア国際映画祭。ドキュメンタリー映画の金獅子賞受賞は9年ぶり。2020年代に入ってから3年連続で女性監督の作品が映画祭の頂点に立ったというのが金獅子賞にまつわるメイントピックとなった。

 同作は写真家のナン・ゴールディンにフォーカスを当て、アメリカで10年以上前から深刻な社会問題となっている“オピオイド・エピデミック”をテーマにした作品だ。オピオイドという麻薬性鎮痛薬の過剰摂取によって50万人以上の人が命を落としており、ゴールディンは「P.A.I.N」という団体を立ち上げ、その薬品を販売しているパーデュー・ファーマ社を経営するサックラー一族と戦い続けているのである。非常に興味深い題材であり、また“戦う女性”を描く作品が求められたという社会的な傾向も当然無視できないわけだが、ここではあくまでもニュートラルに、今回のヴェネチア国際映画祭が第95回アカデミー賞にどのように直結するのかに絞って考察を進めていきたい。

『All the Beauty and the Bloodshed(原題)』金獅子賞を受賞したローラ・ポイトラス監督(REX/アフロ)

 まず近年のこのヴェネチア国際映画祭は、アカデミー賞に向けた賞レースの幕開けを告げる大イベントとして存在感を発揮していることは、多くの人が知ることであろう。ベルリン、カンヌ、ヴェネチア。いわゆる三大映画祭のなかでも賞レースに向けた作品(10月以降に北米で劇場公開されることが多い)のお披露目には格好のタイミングで開催され、賞に直結するといわれるトロント国際映画祭とほぼ同じ時期に開催される。

 数年前まではカンヌがお披露目の場として選ばれることも多かったわけだが、長期にわたって評価を持続させることの難しさもさることながら、賞レースの主役にNetflix作品が立つことが増えるなかで、同社の作品をシャットダウンするカンヌよりもオープンなヴェネチアに流れてくるのはとても自然な流れである。各配給会社は、Netflixが賞レースに向けてプッシュする作品に早い段階で直接ぶつけ、その評価で賞レースのキャンペーンの方策を模索する、といったところだろう。

 現に2010年代まではコンペティション外で注目作がお披露目されたり、コンペティションに1〜2本入るだけだったりしたアカデミー賞狙いの作品は、年々コンペティションのメイン作品として増加している。ちょうどカンヌで「Netflix論争」が起こった2017年、『シェイプ・オブ・ウォーター』が金獅子賞を獲り、『スリー・ビルボード』が脚本賞を受賞。この2作がアカデミー賞本番でも一騎討ちとなった翌年からはNetflixの『ROMA/ローマ』、DC映画の『ジョーカー』、サーチライトの『ノマドランド』と、金獅子賞受賞作が軒並みアカデミー賞で主役級の活躍を見せる。昨年は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は銀獅子賞に留まったわけだが、それでもなんらかの賞を受賞した作品がアカデミー賞でも有力作となるわけで、完全に賞レースの流れを判断する場にシフトしたといえる。

 今年の場合はコンペティション部門の23作品のうち、前々から賞レースへの参戦が期待されている作品が8作品あった。そこに金獅子賞を獲った『All the Beauty and the Bloodshed』は含まれていないが、いかんせんドキュメンタリー映画が主要部門に入ることはほとんどないため致し方あるまい。いずれにせよ、今回の受賞を受けて長編ドキュメンタリー賞の有力作として今後注目を集めることは間違いないだろう。

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