『容疑者Xの献身』と対の物語となった『沈黙のパレード』 “なぜ”を特化させた劇場版

『沈黙のパレード』なぜを特化させた劇場版

 『容疑者Xの献身』では友人である石神(堤真一)が「なぜ」隣人の犯した罪を隠すために新たな罪を犯し、そして自らその罪をすべて被ろうとしたのかが追求され、『真夏の方程式』では旅館を営む家族が「なぜ」大きな秘密を守るために罪を犯したのかに集約される。自ずと所構わず数式を書き殴る湯川の突飛な行動は省かれて然るべきで、またいずれにおいても湯川は「誰が」という点に早々に勘づき、その仮説に基づいて、対象者たる相手と向き合うことでそれを立証していくのである。端的に言ってしまえばミステリーの解決編につなげるためにはあまりにも小ざっぱりとした見せ方であるが、元来事件に興味関心を抱かない湯川という人物の描き方としては正解であり、それこそがこのシリーズの“ドラマシリーズ”と“劇場版シリーズ”の差異を明確にするものでもある。

 もちろん今回の映画においても、「誰が」という部分にカタルシスは要求されない。たしかに終盤、事件の全容が解き明かされていくことで、それまで描かれていた部分の奥底が徐々に露呈していき真犯人が見えてくることに多少なりとも物語に起伏は与えられるが、明らかにそこに固執していないことがよくわかる。ましてや映画におけるミステリー展開の引き金となる殺人行為に関しては、比較的早い段階で“オリエント急行”であることに容易に気付けるようにされており、関わった者たちの顛末については電話でさらりと語られるに留まる。

 そのドライさは情緒的なミステリーを得意とする東野圭吾ブランドとは一見相対するものと思えるが、明らかにこの人数のドラマを捌ききろうとすれば収拾がつかなくなるのは目に見えており、これもまた正しい選択といえよう。そのため物語の要を背負うのは、これまで事件を(内海や岸谷を通して)湯川の元へと運ぶ役回りに徹していた草薙になる。湯川が准教授から教授に昇進したのと同様、係長へと昇進を遂げた草薙。ドラマシリーズが放送開始からちょうど15年を迎えるタイミングで、この草薙が15年抱えてきたものが清算される(原作では23年前の事件だったはずだ)さまが、湯川と草薙の友情譚をフックにして描写されるのだ。

 それは同時にこの『沈黙のパレード』が、『容疑者Xの献身』と連動し、対になる物語であることをも示している。湯川の大学の同期である草薙と石神、すなわち警察と犯罪者、それぞれと湯川の関係性が描かれていく。事件に興味を示さない湯川という人物の立ち位置も、これでかなり強固なものとなるわけだ。そして中盤で真実を暴くことへ若干の躊躇いを見せる湯川が語る「あの時」というのが、「真実を暴いても誰も幸せにならない」と説いた石神の事件のことであるとも推察できる。

 両作品の連動性を如実にあらわすかのように、エンドロールでは『容疑者Xの献身』の映像がふんだんに使われている反面、『真夏の方程式』の映像はごくわずかにとどまっていた。『真夏の方程式』もたしかに劇場版シリーズに通底している先述のテーマに則った作品ではあるが、内海の不在も含め湯川・内海・草薙3人の物語であるべき本筋とは別路線ということであろう。そんな本筋に帰還した今回の作品によって、そうでなくても特別であった『真夏の方程式』がひとつ独立した作品であることが判明し、その特別さが一層増すことになるとは実に面白い。

■公開情報
『沈黙のパレード』
全国東宝系にて公開中
出演:福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、飯尾和樹、戸田菜穂、田口浩正、酒向芳、岡山天音、川床明日香、出口夏希、村上淳、吉田羊、檀れい、椎名桔平
原作:東野圭吾『沈黙のパレード』(文藝春秋刊)
脚本:福田靖
監督:西谷弘
音楽:菅野祐悟、福山雅治
主題歌:KOH+「ヒトツボシ」
製作:フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社
配給:東宝
©︎2022「沈黙のパレード」製作委員会
公式サイト:https://galileo-movie3.jp/
公式Twitter:@galileo_movie
公式Instagram:@galileo_movie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる