『容疑者Xの献身』と対の物語となった『沈黙のパレード』 “なぜ”を特化させた劇場版

『沈黙のパレード』なぜを特化させた劇場版

 『ガリレオ』の劇場版第3作となる『沈黙のパレード』は、公開直後に放送されたスペシャルドラマの『ガリレオ 禁断の魔術』(フジテレビ系)と共に、劇場版前作の『真夏の方程式』以来9年ぶりのシリーズ最新作となる。主人公の湯川学を演じる福山雅治、『容疑者Xの献身』以来のシリーズ復帰を果たす内海薫役の柴咲コウ、そして草薙俊平役の北村一輝。見た目的には時間経過を一切感じさせない3人ではあるが、シリーズが始まって15年経って、ようやくこの一連のシリーズが彼ら3人の物語であったことを証明するのである。

 映画は2017年のとある祭りののど自慢大会で歌う少女の姿から始まる。彼女の美声が音楽家の目に止まり、彼女は歌手デビューを目指して活動を開始する。その過程には家族の反対や、恋人ができるなど、ごくごく一般的な進路選択に悩む少女のストーリーが紡がれていく。しかしそうした選択肢はすべて潰え、少女は行方不明となり数年後の2022年に静岡県のとある民家の火災現場から遺体となって発見される。そして犯人として逮捕された男は、15年前にも別の少女誘拐殺人事件で逮捕歴があるが、完全黙秘を貫き無罪放免となっていた。その時に担当した草薙にとって、因縁の相手というわけだ。

 一方で湯川は、奇しくも事件が起きた町に研究のために来ており、内海から一連の事件を聞かされる。科学の出る幕はないと協力を拒むのの、いつの間にか被害者の少女の家族が営む居酒屋に足繁く通うようになり、町の人々と心を通わせていくのだ。この辺りの描写は、『真夏の方程式』にも見られた湯川の人間的な魅力の部分といえよう。とっつきづらそうでありながらも、決して人当たりは悪くなく、不思議と相手の興味をそそる魔力を持ち得ている。こういった劇場版特有の湯川の描かれ方は、ドラマシリーズとはまた異なる趣を作品に与えることになる。

 さて、当の事件で逮捕された男は再び完全黙秘を貫き釈放となる。そしてこともあろうに町に戻ってきて、被害者家族やその友人たちの前に姿を現し、悪態を吐いて去っていく。それから数日後、町で大々的な祭りが行われている最中に、男は転がり込んでいた元同僚の住居で遺体となって発見される。この2人の人間の死の真相こそが、『沈黙のパレード』という作品を構成するミステリーとドラマの主原料なのである。

 ドラマシリーズの際には、いかに科学的な方法(今回の劇中の内海の台詞を拝借すれば「しちめんどくさい」方法)で殺人に着手し実行する者の、手口を暴いていくかという点にフォーカスが当てられてきたわけだが、劇場版となるとより人間的な、被疑者たちの内面の部分へと切り替えられる傾向がある。つまり、おおむね「誰が」「なぜ」「どのように」という3点を追求することがミステリーの定石ではあるが、「どのように」に作品としての特異性を求めたドラマシリーズに対し、劇場版では過去の作品も含めて「なぜ」という、被疑者側が抱えるドラマ性に特化させることにすべてが注ぎ込まれるのである。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる