さだまさし、朝ドラなどドラマ界で売れっ子に? 『石子と羽男』を導く温かな光

さだまさし、ドラマ界で売れっ子に

 一方、有村架純&中村倫也W主演の『石子と羽男』では、有村扮する東大法学部卒で司法試験に4回落ちた崖っぷちのパラリーガル・石田硝子(通称、石子)の父親で、潮法律事務所の所長・潮綿郎を演じている。

 困っている人を放っておけず、お金にならない案件も格安で請け負ってしまう根っからのお人好しで、娘の石子からは苦言を呈されている綿郎。まず興味深いのは、真面目で固くて律儀な石子が、職場の上司と部下とはいえ、親子関係にもかかわらず頑なに敬語を崩さないことだ。石子の両親は離婚しており、石子は母親に引き取られたため、綿郎とは名字が違うのだが、それにしても母の死後、石子は綿郎と暮らし始めて3年も経過するのに、そこには埋められない溝が存在する。かと言って、父への嫌悪があるようには見えず、綿郎もまた、溝に気づきつつも、無理に埋めようとも、介入しようともしない。微妙な距離感を保ちつつも、一緒に暮らし、一緒に仕事ができる親子関係は、石子という人物像により一層深みを与えている。

 一方、事務所全体を見渡すと、「真面目でコツコツ積み上げていく、医師のように頭が固い」石子と、写真のように見たモノを記憶する「フォトグラフィックメモリー」の持ち主ながら、想定外の事態が起こると思考が停止してしまうコンプレックスを隠し、「羽のように軽やかな性格=羽男」を自称する羽根岡佳男(中村倫也)の軽妙なやりとりが繰り広げられる背景には、石子を見つめる高校時代の後輩で第1話の依頼人&潮法律事務所のアルバイト(後に石子に告白し、交際。オフィス用品会社に就職)の大庭蒼生(赤楚衛二)、同じく石子を見つめる蕎麦屋の塩崎(おいでやす小田)、そうした全てを見守る綿郎がいる。

 さだ本人はドラマ公式サイトで綿郎の役の印象について、「町のほんのちょっとした悩みや苦情、訴訟をどうにか人情でもって解決しようとする小さな弁護士事務所の所長で、落語に出てくる人のいい大家さんみたいな役柄なのかなと思います」(※)と語っている。実際、塩崎と綿郎とのコンビは本作の「下町の温かさ」的部分を担う存在であり、同時に、誰にでも身近に起こりうる些細なトラブルを扱う本作のスタンスは、人情で人々の日々の暮らしに寄り添う綿郎率いる法律事務所のあり方そのものでもある。

 実は、さだ自身、バイオリンの天才少年と期待され、単身上京するが、音楽高校受験に失敗して普通高校に入学。学費を支払ってくれる両親への申し訳なさを抱えつつも、同級生とバンド活動に熱中し、何度も挫折を繰り返しつつ、音楽への夢を諦められずに来た歴史がNHKでドラマ化もされた自伝的小説『ちゃんぽん食べたかっ!』で明かされている。

 思えば、数々の挫折を知るさだが『カムカムエヴリバディ』で、また、『石子と羽男』で、悩み、迷い、夢に向かって、あるいは信念を抱いて必死にあがく若者たちを見守り、導く温かな光のような存在として登場するのは、そうした苦悩を知る先達だからかもしれない。

 多くを語らず、静かに見守り、やわらかな声のトーンと佇まいで若者たちを包み込む穏やかな光として、さだがドラマで重宝される機会は今後ますます増えるのではないだろうか。

参考

※ https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/about/

■放送情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし
脚本:西田征史
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
編成:中西真央、松岡洋太
音楽:得田真裕
主題歌:「人間ごっこ」RADWIMPS(Muzinto Records / EMI)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
公式Twitter:@ishihane_tbs
公式Instagram:@ishiko.to.haneo_tbs

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