『ミッドサマー』『呪詛』に続く 『連続ドラマW 鵜頭川村事件』に潜むおそろしい謎
『火まつり』で事件が起こる背景として描かれていたのは、日本が世界を席巻するほどの経済成長を遂げるなかで、発展や進歩から取り残され、その負の部分だけを引き受ける地方の姿だった。『連続ドラマW 鵜頭川村事件』でもやはり、都会のゴミ捨て場となり、山林や住民の健康と引き換えにして村が生き延びていくという構図が描かれ、日本のさまざまな場所に共通する問題が描かれる。
「俺が産廃業をやって村の奴らを食わせてるんだ」と豪語して、村のなかで権勢を振るう「矢萩総業」のトップを演じる、伊武雅刀の威圧感がさすがだ。このような経済力を背景に、“リアリスト”として求心力を発揮し、犠牲を生み出しながらも邁進しようとする構図は、“都会と田舎”という関係以外に、田舎のなかにも“強者と弱者”という同様の対比が存在することを描いている。つまり、「鵜頭川村」がある種“日本の縮図”として表現されているのである。この拡張的な構造が、「村映画」とつながる、ある種の醍醐味だといえるのだ。
第1話では、そんな村でいきなり深刻な事態が発生。集中豪雨による大規模な土砂崩れによって、村から外に出る唯一の公道が通行不能になってしまうのだ。そして同時に起きるのが凶悪な殺人事件である。誰も村から出られない村は、ある意味、大規模な一つの密室といえるかもしれない。村民たちはどこかにいる殺人者に怯えながら、電気はストップし、食糧が減り続けていく状況のなかで不安やストレスを募らせていく。そして、たまりにたまった怒りとともに、狂気が伝播していく。
こんな混乱状態のなかで、村民たちの積年の感情に振り回されながら、妻を捜探さねばならない主人公・岩森の苦労には同情を禁じ得ないが、こちらの謎も、6話をかけて次第に核心へと迫ってゆくこととなる。この村の民間伝承、信仰の対象となっている「エイキチ」にまつわる、あまりにおぞましい出来事……これは、近年の流行となっている「村映画」と比較しても、これ以上ひどいといえるものはないほど、極めて凄惨なものだといえよう。しかし、ここに触れることなしには、本ドラマが描こうとする、“日本の村”の狂気を暴き出すことにはならない。
前述したように、この村という“密室”は、地球温暖化が一因といわれる異常気象や、それが引き起こす土砂崩れなどの被害、インフラの老朽化とゴミ問題、差別や経済格差問題など、日本全体が直面する事態そのものである。そんな村の謎を解き明かしていく過程で、このドラマを観ている側も、ある種の“痛み”を感じることになるかもしれない。だが、あえて火中の栗を拾わなければ、そして岩森のように、ときに外部からの力が存在しなければ、いつまでも状況が温存されてしまうことを、本作は描いているように感じられる。
「エイキチ」という言葉と、毎エピソードのラストに映し出される“顔”は、そんな“痛み”の象徴として機能するはずである。
■放送情報
『連続ドラマW 鵜頭川村事件』(全6話)
WOWOWプライム・WOWOW4Kにて、8月28日(日)22:00放送・配信スタート
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
出演:松田龍平、蓮佛美沙子、工藤阿須加、山田杏奈、板橋駿谷、冨手麻妙、吉岡睦雄、和田光沙、宇佐卓真、眞島秀和、綾田俊樹、荒川良々、伊武雅刀ほか
原作:櫛木理宇(『鵜頭川村事件』文春文庫刊)
脚本:和田清人
監督:入江悠
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
©︎WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/uzukawamura/