『ミッドサマー』『呪詛』に続く 『連続ドラマW 鵜頭川村事件』に潜むおそろしい謎

『鵜頭川村事件』に潜むおそろしい謎

 スウェーデンの土着的な祭に参加したことで、異様な状況に巻き込まれていく主人公たちの恐怖を描いた映画『ミッドサマー』(2019年)が話題になり、近年アジアでも、タイの『女神の継承』(2021年)や、台湾の『呪詛』(2022年)など、地域の慣習を題材にした、質の高い作品が送り出されてきている。

 櫛木理宇の小説を原作とした日本のドラマ作品『連続ドラマW 鵜頭川村事件』もまた、日本の過疎化が進む、どこにでもありそうな山間の村を舞台に、地域の閉鎖的な環境が巻き起こすパニックと、そこに潜むおそろしい謎を描いた内容だ。ここでは、そんな本ドラマがもたらす複雑な感情の本質的な部分について考えていきたい。

 松田龍平が演じる主人公は、東京で医師として働く岩森という男。彼は娘の愛子と一緒に、妻・仁美の故郷である鵜頭川村にやってくる。それは、「“エイキチ”がくる」という謎の言葉を残して姿を消した仁美の足取りを追うためだった。彼女の実家や双子の妹・有美(蓮佛美沙子が姉妹2役を演じる)、近隣の人々に話を聞いても手がかりは得られなかったが、手帳の書き込みや、村に落ちていた仁美のネックレスを拾った岩森は、この村のどこかに仁美がいることを確信し、閉鎖的な村を捜索することとなる。

 しかしこの村、一触即発の異様な状況にあった。産業廃棄物処理業を営み、村の経済を長く掌握してきた「矢萩総業」と、環境の悪化を懸念する若い世代との間の確執が激化していたのだ。本作の監督、入江悠は、『SR サイタマノラッパー』シリーズに代表されるように、地方の人々の営みを、そこで暮らす人間の視点に立って、ユーモラスに、時には悲哀を込めて描いてきている。本作でも、上の世代に押しつぶされる若者の立場を、共感をもって表現している。

 とくに、冨手麻妙演じる青年団のメンバー・白鳥芽衣子が、青年団のリーダーである降谷辰樹(工藤阿須加)を想い、密かにダンスを踊るシーンが見どころだ。ここで想起するのが、中上健次脚本、柳町光男監督による、日本の村で起こる凄惨な殺人事件を描いた映画『火まつり』(1985年)である。時代の波から隔絶されたような牧歌的な風景のなかで若者たちがダンスを踊り、若さを発散させて環境に抗おうとする情景は、微笑ましさと同時に物悲しさを感じるところがある。この風景のミスマッチが生み出す問題意識というのは、『SR サイタマノラッパー』にも通じる部分があった。

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