『鎌倉殿の13人』小栗旬の“暗い瞳”に宿る義時の孤独 史実の余白を描く三谷大河の秀逸さ

『鎌倉殿の13人』暗い瞳に宿る義時の孤独

 「比企の乱」時点での義時を突き動かす原動力のひとつが、夢半ばにしてこの世を去った兄・宗時(片岡愛之助)の「坂東武者の世を作る。そしてそのてっぺんに北条が立つ」との思い。義時にとって今回の比企討ちは自らが権力を手にするために行ったことではなく、鎌倉の平穏を維持するために決断したこと。つまり、坂東武者全体にとってより良い状態を作ろうと、ライバル一族を滅ぼしたのだ。

 ここで義時が「さあ、これからは坂東武者の、そして北条の時代だ!」と迷いなく未来を見つめていれば、それはある種の“覚醒”だったかもしれない。が、すべてが終わった後の義時の目はとてつもなく暗い。姉である政子から「これで良かったのですね」と問われると彼は間をおいて答える「良かったかどうかはわかりません。しかし、これしか道はありませんでした」。

 頼朝のそばでそのやり方を誰よりも詳細に見てきた義時だからこそ、将来に不安の芽を残さないよう、残酷ともいえる手を使い、徹底的に敵を叩きのめした。だがそれは“計略”であり“論理”の部分だ。根回しを済ませた上の非情さで人の命を奪うことに彼の良心は揺らぐ。まだ歴史の悪役として “闇”に堕ち切れてはいないのである。

 そこで頼家の目覚めだ。長く臥せり、もう床から出ることはないと誰もが思ったその時、鎌倉殿は何事もなかったようにしれっと起き上がった。最悪のタイミング。さあ、宿老たちは、そして義時はリーダーとしての器があるとはいえないこの二代目をどうするのか。

 かつて父・時政(坂東彌十郎)や兄、姉に振り回され屋敷中を困り顔で走り回っていた小四郎はもういない。今、鎌倉のまつりごとを裏で動かそうとしているのは、全体にとって邪魔な人間を排除するため暗い目で命令を下しながら、良心を捨てきれない孤独な男だ。

 と、ここまで書いてふと気になり『鎌倉殿の13人』公式サイトに飛んでみたら、一幡と比企尼(草笛光子)の画像に「故人」のマークが付けられていない(8月20日現在)。これは義時がかつて明るく宿していた“情”の部分をそのまま受け継ぎ、父親に正論をぶつけられる唯一の存在・泰時が年老いた尼と一幡をどこかに隠しているということなのか。いやでもアサシン善児が比企の館に帯同しているし……奴からは絶対に逃げられないよ? ああ、だけど泰時、会議の時に目が泳いでいたな。

 などとついさまざまな想像を働かせてしまうのが三谷大河。わたしたちは歴史上の答えを知っている。だがその答えに行き着くまでの道筋を三谷幸喜がどう立てるのか、鎌倉の行く末をじっくり見守りたい。

(そういえば、全成が呪いをかけた頼家の人形<ひとがた>を見つけられやすい場所に置き換えたのは一体誰なのか。あの一件もその後の誰かの運命に大きく影響しそうである)。 

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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