『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』にみる、映画界のシリーズ作品における課題

『ジュラシック・ワールド』シリーズの課題

 いまは、観客が配信サービスで過去作をすぐに観られる状態にある。だからグラント博士たちの活躍が観たいのであれば、第1作を観れば、こと足りるはずだ。「レジェンド」といえる過去の作品と並び立とうとするのであれば、新しい試みを行って独立した魅力を持つべきだろう。少なくとも、『ジュラシック・ワールド』シリーズの1、2作目には、その部分はまだ意識されていたのではないか。

(c)2021 Universal Studios and Storyteller Distribution LCC. All Rights Reserved.

 前作から引き継がれた、世界に恐竜が放たれてしまった問題については、とくに解決策がないまま、ぼんやりと「共生」を示すイメージを映し出すことで済ませてしまっているのにも、違和感が残る。生態系への影響が大きいはずだし、何より人間の生活がおびやかされることは間違いないはずである。本作では、人為的な食糧危機という、これよりも深刻な事態を発生させることで、もともとの問題は先送りされたまま終わってしまうのだ。

 一方で終盤の内容は、「共生」のテーマを全く無視したものになっているわけではない。共感すべき登場人物たちは、初対面ながらも最終的に一つの場所に集結し、ともに協力しながら最後の危機を乗り越えることとなる。彼らの共通点は、恐竜や生命に対する愛情や畏怖の心を持っているということだ。そういう人々であれば、人種や性別、さまざまな特徴や立場の垣根を越えて助け合うことができる。

(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

 対して、国連より委託されて恐竜を管理していた企業「バイオシン」のCEO(キャンベル・スコット)は、ものごとや生命までを、利益が絡んだ見方でしか判断しない人物として描かれている。近年、このように企業を擬人化したような功利主義的な人物が脚光を浴びることが、アメリカや日本でも増えてきているように感じられる。人々のために企業があるのでなく、企業を成長させるために人々を利用し、犠牲にしてもいいという考え方だ。すでにこの思想が、経済格差が広がり続ける現代社会において、“悪”だという認識が薄れてきたことが問題なのである。本作では、より良い未来を目指す上で、このような人々との「共生」はあり得ないというメッセージを送っている。

 『ジュラシック・パーク』で、マルコム博士がT-REXのおとりになった犠牲的な行動が、本作でリフレインされるように、人間が少しでも多く生き残るためには、自分の欲のためではなく、互いに助け合うことで状況を打開しようとする姿勢が必要なのではないか。“そういう時代が来てしまっている”ということが、「共生」をテーマとする本作がうったえている考え方ではないだろうか。

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 恐竜たちが解き放たれたことで起きる問題を追及していくような脚本を書くことが困難だっただろうことも、ある程度予想がつく。恐竜が人間生活に無視できぬ害を及ぼし、それを阻止しようとするならば、軍の兵器などを利用した大掛かりな殺処分が必要になるはずである。これは、例えばオーストラリアでカンガルーが増えすぎたことで、害獣として毎年多くが殺処分される状況に似ている。生命と共生のテーマを考えるならば、ここの部分を描けば、生命と人間生活における鋭い問題提起となり、より意義深い内容になったはずだ。

 しかし、このような選択肢を製作側が気づかなかったわけはない。多くの観客を楽しませる娯楽大作として、おそらくは最終的に陰惨な展開を避けるという判断をしたのだろう。であれば、観客サービスを含めた、いろいろな要素を用意することで、作品を充実させよう……という方向に意識を向けることになったのは理解できる。そう考えると、前作が提示したテーマを回避し、バラエティあふれる作風になったのは、“なるべくしてなった”結果だともいえよう。

(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

 このような判断になったのは、『ジュラシック・ワールド』シリーズが、『スター・ウォーズ』続3部作シリーズ同様、巨大なプロジェクトやビジネスとして“失敗できないもの”になってしまったからでもある。過去作ファンに向けた、過剰といえる目配せやサービスというのは、作り手側の“守りの姿勢”の表れだといえるだろう。

 しかし、もともと原点となった『ジュラシック・パーク』は、『スター・ウォーズ』の旧3部作や新3部作同様に、新しい試みや表現方法を駆使した、“攻めの姿勢”で撮られた作品であり、だからこそ、傑出した映画として後世まで愛されることとなったのである。スピルバーグ監督による『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(1997年)が、華々しい成功を遂げた前作を受けてなお、挑戦心にあふれた内容だったことを思い出してほしい。

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 ただでさえレジェンドとなったシリーズと比べられるのだから、作り手が“守りの姿勢”にならざるを得ないのも理解できる。しかし、それで興行的な成功を収めたとしても、本作が真の意味で「レジェンド」だと考える人は少ないのではないだろうか。『ジュラシック・ワールド』シリーズを締めくくる本作が、第1作を讃えるような作品となってしまったことで、今後誰かが新たなシリーズを始めることになったとしても、やはり『ジュラシック・パーク』シリーズ第1作を基にしたものとなるだろう。

 第1作の精神を引き継ぐのであれば、その姿勢ごと参考にしなければならないはずだ。新たな試みに挑戦せず、過去シリーズの資源を使い潰す製作の姿勢では、クリエイターの創造性を萎えさせるとともに、映画界における「持続可能性」を妨げてしまうおそれがあるのではないか。これが、大手スタジオによる超大作シリーズの多くに共通する問題であり、未来への課題であるといえるのである。

■公開情報
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』
全国公開中
監督:コリン・トレボロウ
脚本:エミリー・カーマイケル、コリン・トレボロウ
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニール、ディワンダ・ワイズ、マムドゥ・アチー、BD・ウォン、オマール・シー、イザベラ・サーモン、キャンベル・スコット、ジャスティス・スミス、スコット・ヘイズ、ディーチェン・ラックマン、ダニエラ・ピネダ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
ストーリー原案:デレク・コノリー、コリン・トレヴォロウ
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、アレクサンドラ・ダービシャー、コリン・トレヴォロウ
配給:東宝東和
(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.jurassicworld.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/jurassicworld.movie.jp
公式Twitter:https://twitter.com/jurassicworldjp

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