『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』にみる、映画界のシリーズ作品における課題

『ジュラシック・ワールド』シリーズの課題

 映画史に巨大な爪痕を残した、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』(1993年)の公開から、およそ30年。その間、『ジュラシック・パーク』3部作が完結し、新たに始まったシリーズ『ジュラシック・ワールド』3部作も、ついに『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』で完結を迎えた。

 夏のアドベンチャー映画大作として、ファミリーやカップル、恐竜好きの子どもたちや映画ファンなど、老若男女幅広い観客に認知され、楽しまれてきたシリーズだが、最後の最後、『ジュラシック・ワールド』シリーズの締めとなる本作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、意外な一作となった。

 ここでは、そんな本作の内容を振り返りながら、作中のメッセージや、今後の映画界のシリーズ作品における課題などを考えてみたい。

(c)2021 Universal Studios and Storyteller Distribution LCC. All Rights Reserved.

 序盤は、かなり引き込まれる描写が多い。カウボーイが牛を追いかけるように、馬を駆って恐竜を追いかけたり、雪の中の工事現場に巨大な恐竜が現れたりと、人間の営みの中に恐竜が存在している景色が映し出されるのだ。

 これは、前作でさまざまな種の恐竜たちが本格的に世界に解き放たれた結果、生まれた光景なのだが、その構図が異様なほど自然で、まるで古来から人間と恐竜が共生してきたかのような錯覚を覚えるのである。それが美しく牧歌的なものとして感じられるというのは、そこでの演出以外に、シリーズが積み上げてきた説得力のおかげでもあるように感じられる。

(c)2021 Universal Studios and Storyteller Distribution LCC. All Rights Reserved.

 恐竜たちのアクションシーンや、サスペンスシーンは数多く用意されている。本作の白眉となっているのは、イタリア山中の森の奥でクレア(ブライス・ダラス・ハワード)をゆっくりと追い詰めていくテリジノサウルスの不気味な姿だろう。そして、執念深いアトロキラプトルが建物の窓に飛び移り襲撃する、マルタ島での描写には、マット・デイモン演じるエージェントが活躍する『ボーン・アルティメイタム』(2007年)での有名なシーンを想起させるようなユーモアもあった。

 しかし本作では、このような恐竜による脅威そのものよりも、犯罪組織の略奪や大企業の陰謀、それらの脅威と戦う主人公たちの戦いという、ほとんど世界を巡るスパイアクション映画へと接近してしまい、このシリーズで最も期待されている“恐竜”たちの活躍に、思ったほどフォーカスしてくれないのだ。これは、『ワイルド・スピード』シリーズがヒットを背景に変遷してきた状態に近いといえよう。

 そして、遺伝子操作によって生み出された巨大イナゴの群れが解決すべき問題として設定され、基地への潜入作戦が描かれる。ここでは恐竜たちが、その合間で主人公たちを襲う、ある種のパーツのような存在になっていると感じられてしまう。

(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

 さらには、サム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラムと、『ジュラシック・パーク』第1作からの人気キャストを再登場させるという、前シリーズへのサービスを行ったことで、描くべき人間ドラマが、いたずらに増えてしまったのも、恐竜の存在感を薄くする要因となってしまっている。この設定の結果はそれだけにとどまらず、物語を煩雑で取り止めのないものとしてしまっている。

 前シリーズのキャストたちがドラマやアクションに組み込まれるのは、懐かしさや楽しさを感じる魅力となっているのは確かではある。グラント博士とサトラー博士が、いまさら学生のような淡い恋愛感情を抱いている場面も微笑ましい。しかし、多くの観客はそれよりも恐竜に集中したいというのが正直なところではないのか。

(c)2022 Universal Studios and Amblin Entertainment. All Rights Reserved.

 キャストを揃えて賑やかにシリーズを終わらせたかったという、製作側の意図も分からなくはないが、一本の映画作品としての完成度は、このために犠牲になってしまっていると言わざるを得ない。さらには、過去の名シーンを思い出す引用も作中に散りばめられているのである。これは、映画作品というより、ある種の卒業イベントのようになってしまった『スター・ウォーズ』続3部作と同じような失敗といえるのではないか。

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