黒木華×杉野遥亮の演技に釘付け 『僕の姉ちゃん』を10倍楽しむための3つのキーワード

『僕の姉ちゃん』楽しむためのキーワード

黒木華と杉野遥亮の演技が白眉

 もしも「ベスト・キャスティング大賞」というものがあるのなら、2022年度は間違いなくこのドラマに進呈したい。それほどに2人とも、ちはると順平にハマっている。「自然な演技」と、言うは易しだが、それは確かなスキルと緻密な計算があってこそ実現するものだ。2人の芝居を観ていると、あらためてそれを痛感する。

 とにかく2人の「間」がいい。リビングという、毎回同じシチュエーションで延々続く会話劇を座持ちさせ、観る者を引き付けなくてはならない。この非常に難易度の高いミッションを、2人とも悠々とこなしてみせている。ちはると順平、どちらが「ボケ」でどちらが「ツッコミ」かと問われれば、双方が自在に入れ替わる「笑い飯方式」と言えるだろう。姉弟だからこそ、互いにのびのびとボケたおしてみせ、互いに持っている「天然さ」へのツッコミが実に的確だ。

 酔って弟に格言めいたことを言う、ちはるのキャラクターは、力加減を誤れば説教臭くなったり上滑りしてしまう、実はとても難しい役どころだ。これを絶妙な塩梅でチャーミングに演じきった黒木の安定感に、視聴者は心置きなく身を委ねることができる。漫画原作を実写化するにあたり、黒木が実現してみせた「立体感」により、ちはるも様々な経験を乗り越えて「格言姉ちゃん」にたどり着いたのだということが、よくわかる。

 杉野遥亮の、完全にイケメンオーラを消し去った「非モテの平凡な男」の芝居にも目を見張る。「ああ」「うん」といった単純な相槌に無限のバリエーションを持つ引き出しの多さ。その時々の順平の心情を、猫背の角度で表現してみせる演技力には恐れ入った。興に乗って話が脱線するちはるに対し、食い気味にボソッと入れる順平のツッコミが素晴らしく、時に爆笑してしまう。

僕の姉ちゃん

 このドラマの撮影は、2021年の春から夏にかけて行われたという。杉野が、黒川役で広くお茶の間に認識された『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(日本テレビ系)よりも前のクランクインで、すでにこの演技の域に達していたことに驚く。

 黒木はインタビューで、姉弟ならではの絶妙な「扱いの雑さ」を杉野が表現してくれたので「楽しく演じられた」と語っている。(※)そう、この「ラフさ」を名優2人がとても丁寧に演じたからこそ、このドラマは成功したと言えるのではないだろうか。

「これは、僕と、僕の姉による、つかの間の2人暮らしの記録です」

 毎回冒頭に流れる順平のモノローグ。ハンバート ハンバートによるOP曲「恋の顛末」の歌詞にある<こんな時間はいつか終わる>という一句。OKAMOTO'SによるED曲「Sprite」の歌詞にある<過ぎゆく月日が俺たちを変えてしまっても>というフレーズ。このドラマが表現しようとしている「刹那」というテーマに胸がクッとなる。物事に「不変」も「永遠」もない。だからこそ「一瞬の煌めき」が尊いのだ。姉と弟の、ある春から晩夏にかけての小さな物語。くり返し何度も観てしまいたくなる中毒性がある。一度しかない今年の夏の思い出に、ぜひ加えてほしい一作だ。

参照

※ https://www.youtube.com/watch?v=6MO1mYzmlUM

■放送情報
水ドラ25『僕の姉ちゃん』
テレビ東京ほかにて、7月27日(水)スタート 毎週水曜深夜1:00~放送
Amazon Prime Videoにて独占配信中 
出演:黒木華、杉野遥亮、久保田紗友、若林拓也、春原愛良、藤間爽子、大場みなみ、岩谷健司、湯川ひな、遊屋慎太郎、渡辺大知、片桐仁、平岩紙
原作:益田ミリ『僕の姉ちゃん』シリーズ(マガジンハウス刊)
監督:吉田善子
脚本:清水匡、高田亮、吉田善子
オープニングテーマ:ハンバート ハンバート「恋の顛末」(SPACE SHOWER MUSIC)
エンディングテーマ:OKAMOTO’S「Sprite」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
プロデューサー:江川智(テレビ東京)、小澤祐治(ギークピクチュアズ)、大塚健二(ギークサイト)
制作協力:ギークピクチュアズ/ギークサイト
製作著作:テレビ東京
(c)テレビ東京
(c)MIRI MASUDA/マガジンハウス
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/bokuane/
公式Twitter:@tx_bokuane
公式Instagram:@tx_bokuane

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