『ちむどんどん』を通して考える戦争の記憶 “沖縄と本土”を暢子と和彦の関係から読み解く

『ちむどんどん』を通して考える戦争の記憶

 以前もレビューに書いたけれど(参考:『ちむどんどん』の恋愛描写の先にあるのは沖縄への回帰か 暢子の“好き”を考える)、暢子を沖縄と置き換えてもいいのだと思う。和彦の沖縄への憧憬のようなもの。沖縄を知りたくて知りたくて、ちむどんどんする心が、大人になって暢子と再会したとき、和彦のなかで大きく動き出したのだ。

 房子(原田美枝子)が第72話で「あの子(暢子)がこの店に来てからいろんなことが動きだした気がする」と言っていたように、暢子(沖縄)が日本に返還されたことで、いろんなことが動き出したのだ。それは本土の人間が沖縄をもっと知るときが来たということである。

 暢子(沖縄)と本土では文化や生活習慣が少し違う。本土では当たり前のこととはちょっと違っていて戸惑うことも多いけれど、受け入れて、もっと知っていくことが必要だ。和彦と暢子の結びつきは、沖縄が本土に返還されたことをきっかけに、本土の人間はアメリカに占領されて困難もあったであろう沖縄についてもっと歩み寄っていくという決意の現れなのだと解釈することも可能ではないだろうか。

 振り返ると、朝ドラで沖縄を舞台にした前2作『ちゅらさん』と『純と愛』は現代劇で戦争についての具体的な描写はない。本土を舞台にした朝ドラには戦争のことを描いた作品がたくさんあってお盆に戦争のことを思い返す描写も多い。沖縄本土返還50年の年に沖縄を舞台にした『ちむどんどん』がこれまで触れてこなかった沖縄の戦争を描いたことで、実際に知る方々が亡くなって記憶が薄れていくことに歯止めをかけたといえるだろう。

 沖縄について語る役割が、沖縄出身の仲間由紀恵と、沖縄出身で『沖縄の魂シリーズ』という公演を続ける津嘉山正種であることにも慎重な配慮を感じる。また、仲間と同じく沖縄出身の黒島結菜が沖縄の特集番組『仲間由紀恵・黒島結菜 沖縄戦 “記憶”の旅路』(NHK総合)に出演することも、『ちむどんどん』をきっかけに沖縄を知りたいと思う人を少しでも増やしたい願いのようにも思う。

 ただし、『ちむどんどん』は戦争を知らないで育った子供たちの物語であって、戦争の記憶は通奏低音であり、主題は家族たちがそれぞれどう生きていくかの物語なのだろう。そういう意味では第15週「ウークイの夜」は『ちむどんどん』に流れる通奏低音を描いたスピンオフのような週だったと言ってもいいのではないだろうか。

参考

・https://realsound.jp/movie/2022/07/post-1073060.html

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK

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