『ちむどんどん』の恋愛描写の先にあるのは沖縄への回帰か 暢子の“好き”を考える

『ちむどんどん』暢子の“好き”を考える

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』。暢子(黒島結菜)と和彦(宮沢氷魚)が急速に互いを意識しはじめた第13週「黒砂糖のキッス」。暢子には智(前田公輝)がいて、彼は好意をもって結婚話を進めようとしている。和彦には愛(飯豊まりえ)がいて、こちらも結婚話が進んでいる。

 ちぐはぐな関係で興味深いのは、暢子と和彦はふたりとも、恋や結婚にさほど興味がなさそうでただ流されて見えるところだ。暢子は恋に疎く、和彦も恋愛脳タイプではない。相手が積極的なのでなんとなく流れに身を任せてしまいそうになりつつ、はたしてこれでいいのかと立ち止まって考えているような暢子と和彦。当人の思いは別として傍から見れば、どちらも相手に不義理をしている印象ではある。

 智も愛も悪い相手でもない。むしろいい人で、否定するようなことはなく、場合によってはこのまま結婚してもいいかな程度のことなのだろう。こんなふうになんとなくつきあってしまったり結婚してしまったりすることは現実でもなくはない。

 暢子と和彦のあやふやな感じにデジャブを覚えた。暢子の姉・良子(川口春奈)の結婚エピソードである。良子は博夫(山田裕貴)に心惹かれながら、彼が煮えきれないのと、家の経済状況を鑑みて、資産家の金吾(渡辺大知)と結婚を決めたが、土壇場で博夫を選んだ。さすが姉妹。良子も暢子も思考や行動が似ているようだ。

 だが良子のその後は決して幸福とはいえない。あんなにも惹かれ合い結婚したというのに、現在夫婦の関係性は冷めている。正確には良子が博夫に不満を抱えている。長男の嫁が外に働きにでるのはまかりならんとされる旧家のしきたりを打破したい良子だが、博夫はできずにいる。それが良子を苛立たせるのだ。

 すでに良子の博夫への愛情は薄れているのかなと思いきや、教師として自信を失った良子は博夫に助言を求め、冴えた答えをもらって満ち足りた気持ちになる。良子にとって博夫は美しき理想を語る点において申し分ないようだ。

 博夫は理想主義者なだけで行動は伴わないが、口にする理想論は理想なだけに知性と教養に満ちた純粋なもので、良子にはその言葉を浴びると光が差したように感じられるのだろう。

 第61話で愛が「強い光で進むべき道を照らしてほしい」と和彦に訴えていた。おそらく良子もそうで、なんだかんだで不安定で混沌としている日常を変えたくて、でも、ひとりではどうにもならなくて、光差すことを求めているのではないだろうか。それは暢子も同じである。

 はっきり描かれていないが、比嘉家はやんばるで貧しい生活を余儀なくされている。沖縄自体がアメリカと日本の間にあっていまだに不安定である。智の場合、そんな同じ仲間同士、助け合って生きていこうと考えているのだろうけれど、良子や暢子は本能的に外に突破口を求めていくしかない。良子は教育によって社会を変えたいと考え、暢子は東京に憧れ、東京で料理人になろうと上京したわけだ。

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