まるで抜き打ち“韓国作品習得度テスト”!? 『ベイビー・ブローカー』豪華配役が持つ意味とは

『ベイビー・ブローカー』豪華配役が持つ意味

 韓国映画、韓国ドラマを観ていると、とても馴染みがある顔なのにどこで出会ったのか思い出せない、「あの人絶対知ってるんだけど、誰だっけ?」という状態に陥ることがよくある。6月24日に公開されたばかりの是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』には、そんな瞬間が何度も何度も訪れる。だが、釜山からソウルへのロードムービーでもある今作は、物語の展開がとても早く、一瞬見かけた顔を心の中で反芻している間に、彼らを乗せたバンは次の地点へ向かって走り出してしまう。まるで抜き打ち“韓国作品習得度テスト”のような映画である。「あの人誰だっけ?」を自力で思い出せたときほど達成感を得ることはないが、ここではネタバレなしで豪華出演者をおさらいしてみたい。また、豪華キャスティングを羅列する中で気づいた、この映画に込められたさまざまな事柄についても考察してみる。

 物語を牽引するのは、赤ちゃんポストに預けられた子どもを売却しようとするブローカーの二人、ソン・ガンホとカン・ドンウォン、赤ちゃんの母親のイ・ジウン(IU)、人身売買疑惑を追う二人組刑事のペ・ドゥナとイ・ジュヨン。これらのキャストについては公式サイトなどで詳しく書かれているので割愛する。そのうち、イ・ジウンだけは彼女のキャスティング理由と深く関わってくる嬉しい再共演を後ほど紹介する。

イ・ムセン『静かなる海』Netflixにて配信中

 若い母親ムン・ソヨン(イ・ジウン)が、生後まもない赤ちゃんを教会付設の赤ちゃんポストの前に置く。その姿を車内から追う、刑事のスジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)。張り込み中のスジンに着替えや食べ物を差し入れする夫は、『39歳』でチョン・ミド演じるチャニョンの恋人役を演じたイ・ムセン。そのほかにも『夫婦の世界』と『ある春の夜に』でそれぞれ医師役を演じ、『静かなる海』でもペ・ドゥナと共演している。

イ・ジュヨンとリュ・ギョンス『梨泰院クラス』(JTCB公式サイトより)

 クリーニング店を営むハ・サンヒョン(ソン・ガンホ)の周りをうろつく、反社会的勢力に属するシン・テホ役は、リュ・ギョンスが演じている。『梨泰院クラス』でトランスジェンダーのマ・ヒョニ役を演じたイ・ジュヨンと、元ヤクザのシェフのチェ・スングォンを演じたリュ・ギョンスは、パク・セロイ(パク・ソジュン)の店「タンバム」の従業員役で共演していた。

イ・ドンフィ『恋のスケッチ ~応答せよ1988~』(tvN公式サイトより)

 刑事のスジンとイ刑事がおとり捜査に借り出すカップル役を、イ・ドンフィとキム・セビョクが演じている。イ・ドンフィは『恋のスケッチ ~応答せよ1988~』で幼なじみ5人組の1人、ドンリョン役を演じている。そのほかにも映画『エクストリーム・ジョブ』(2019年)、『幼い依頼人』(2019年)、『お嬢さん』(2016年)、『ビューティー・インサイド』(2015年)など、ドラマでは『アントラージュ ~スターの華麗なる人生~』、『ペガサスマーケット』など多数の出演作がある。どの出演作でも独特の“間”を作る技術に優れた俳優で、カンヌ映画祭で行われたワールドプレミアでも彼のシーンで大きな笑いが起きていた。プライベートでは『イカゲーム』で一躍世界的スターになったチョン・ホヨンと長年交際している。

 
 
 
 
 
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イ・ドンフィのInstagramでキム・セビョクとのシーンがシェアされている

 イ・ドンフィの“妻役”を演じたキム・セビョクは、キム・ボラ監督の『はちどり』(2018年)で、14歳のウニが心を開く漢文塾の講師役を演じている。そのほか、『それから』(2017年)、『逃げた女』(2020年)や『あなたの顔の前に』(2021年)と連続して出演する、ホン・サンス組でもある。

ペク・ヒョンジン『模範タクシー』(SBC公式サイトより)

 刑事のスジンとイ刑事とは別の事由でソヨンを追う刑事役に、『模範タクシー』や『悪魔判事』で一度見たら忘れられない強烈な役を演じていたペク・ヒョンジンが扮している。映画の出演も多く、ホン・サンス監督の『あなた自身とあなたのこと』(2016年)や、『サムジンカンパニー1995』(2020年)、『それだけが、僕の世界』(2018年)などに出演している。

 ソヨンの出自を追ってスジンたちが訪れた場所には、彼女に関わるもうひとりの“ブローカー”がいた。その女性を演じるのが、『模範タクシー』でも表の顔はソーシャルワーカー、裏の顔はブローカーの女性を演じていたキム・ドヨン。最近の作品では、『グリーン・マザーズ・クラブ』にも出演している。

チョ・ヒジン『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』(JTBC公式サイトより)

 また、別の理由でムン・ソヨンを追う女性役を演じているのは、『私の解放日誌』で、ミジョン(キム・ジウォン)の銀行窓口担当者役、『恋愛体質~30歳になれば大丈夫』ではウンジョン(チョン・ヨビン)の精神科医役を演じていたチョ・ヒジン。『ベイビー・ブローカー』が上映されたカンヌ映画祭の別部門、批評家週間に出品されていた『Next Sohee(英題)』(チョン・ジュリ監督)でも、刑事役を演じているペ・ドゥナと対立する役としてキャスティングされていた。『Next Sohee』は、ペ・ドゥナが主演した『私の少女』(2015年)の、チョン・ジュリ監督による新作。ちなみに『私の少女』には、次の項で紹介するソン・セビョクが出演している。

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