あえて“映画”を名乗った『ゆるキャン△』のチャレンジ TVシリーズにはなかった要素とは
映画『ゆるキャン△』がついに公開された。7月2日~3日の映画観客動員ランキングでは、『トップガン マーヴェリック』、『バズ・ライトイヤー』に次いで3位を記録。見事なスタートダッシュを決めたと言っていいだろう。製作発表から4年の月日が流れており、ファンの期待度の高さをうかがわせる。
『ゆるキャン△』は、キャンプをはじめとする野外でのレクリエーションの楽しさを満喫する女子高生たちのゆるやかな日常を描いた作品。あfろによる原作コミックがベストセラーとなり、TVアニメ化も大成功。昨今のキャンプブームの一端を担う作品と言っても過言ではないだろう。福原遥主演でドラマ化もされて、こちらも好評を博した。
大人になるということ
待望の映画版は、主人公の女子高生たちが大人になった後のストーリーだ。このことは予告の段階で明らかにされており、ファンを大いに驚かせた。
ソロキャンプが好きな志摩リンは、名古屋のタウン誌に編集者に。いつも朗らかな各務原なでしこは、東京・昭島にあるアウトドアショップの店員に。ハイテンションなムードメーカーの大垣千明は、東京からUターンして地元山梨県の職員に。おっとり落ち着いている犬山あおいは、やはり地元山梨の小学校教諭に。飼い犬の“ちくわ”をこよなく愛する斉藤恵那は、横浜でペットのトリマーに。いずれも社会人として忙しく働いているのだ。
なお、劇中では正確な年齢が明らかになっていないが、劇場パンフレットに収録された各務原なでしこ役・花守ゆみりのインタビューによると、どうやら高校時代から10年後の話らしい(京極義昭監督は「20代半ば」と発言している)。キャラクターの等身もTVシリーズより高くなっており、リンのトレードマークだったシニヨン(お団子)はなくなっている。最初に本作の設定を聞いた花守は、衝撃を受けたと振り返っている。
大人になったリンやなでしこたちはそれぞれの生活を送っていたが、県の観光推進機構の職員になった千明が名古屋でリンと再会。古い施設の再開発を考えていると話す千明にリンが「キャンプ場にでもすればいいじゃん」と答えたことから、ダイヤモンド富士のビューポイントである山梨県の高下地区に新しいキャンプ場を作る計画が動き出し、離れ離れだった5人が再結集する。これまでキャンプという非日常を楽しんでいた彼女たちが、今度はキャンプ場づくりという非日常に挑戦していく。これが映画『ゆるキャン△』のメインストーリーとなる。
変化と成長
5人の変化と成長は明らかだ。車や大型バイクに乗って長距離移動を楽々とこなし、飲酒だってする。なでしこは得意のコミュニケーション能力を活かして接客をしているし、寡黙に見えるリンも営業職を経験して社会人らしい受け答えを身につけている。あおいはすっかり教師の顔になり、鳥羽先生とほぼ対等に会話する。千明は大切なプレゼンを礼儀正しく、しっかりこなす。大人になったことで、できることも増えていく。そのことについて、彼女たちに躊躇は見られない。貪欲でさえあるように見える。
TVシリーズの『ゆるキャン△』は「日常系アニメ」と称されることもあった。ファンはリンやなでしこたちの変わらないゆるやかな日常を愛でていた部分もあっただろう。そう考えると、こうした登場人物たちの「成長」や「変化」に戸惑ってしまうのも仕方ない部分はあると思う。
だが、実際のところ、登場人物たちの変化や成長は、原作コミックやTVシリーズでもしっかり描かれていた。たとえば、なでしこという転校生の存在がきっかけで、徐々にリンや千明、あおいたちはお互いにコミュニケーションを取るようになり、恵那も巻き込んでいく。自分と異なるタイプの人間と交流し、仲間になって新しいことを経験する。これは間違いなく一つの成長である。
キャンプを楽しんでいたあの頃のゆるやかな雰囲気のまま、キャンプ場づくりという非日常を楽しむリンたち。ハードな作業も彼女たちの努力と工夫、地元の人たちのアドバイス(都合よく全部やってくれたりはしないところがリアル)もあって順調にこなしていく。