傑作『ブロリー』から4年 『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』の様々な新しい試み

『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』解説

 本作を合わせて『超』劇場版では3作となる、鳥山明の脚本の仕事は、おおむね快調である。本作では、人気、強さともにシリーズの中心になってきた孫悟空、そしてライバルのベジータは、じつは本作のストーリーの本筋には絡んでこない。この意外な展開はおそらく、キャラクターの豊富さにもかかわらず、どうしても悟空とベジータの活躍に頼ってきたシリーズに変化を与え、作品に幅を持たせるためだと思われる。

 となると、次に人気が高く、卓越した戦闘能力を持つキャラクターである、孫悟飯とピッコロの物語となるのは必然的だといえよう。かつて鳥山明の原作漫画における「セル編」のラストから主役の座につき、そのまま新しい物語に移行していくはずだった悟飯……。一時は悟空を超える強さに達したものの、続く最終章「ブウ編」では、読者の希望に応えるかたちで、またしても悟空やベジータの活躍の陰に隠れることになってしまった彼が、本作で主役の位置に返り咲くのである。

 ほとんど戦闘にしか興味がなく、まさに北欧神話の「ヴァルハラ」(戦士の魂が永遠に生き続ける場所)といえる様々な地で修行を繰り返してきた悟空は、息子である悟飯の生活のケアをすることは少なかった。その代わりに父親役を務めてきたのは、かつて大魔王として恐れられ、いまでは“神”と融合したピッコロなのである。微笑ましいのは、そんな超越的な存在であるピッコロが、本作では、悟空の孫であり、悟飯の娘である3歳の少女パンに修行をつけている場面が描かれるところだ。

 悟飯の娘ということは、ピッコロにとって孫も同然。クールに装ってはいるが、内心デレデレでパンの面倒をみているのである。しまいには、学者としての研究に忙しい悟飯に、父親としての自覚を持つように説教したり、悟飯夫妻の代わりに幼稚園のパンのお迎えに行ったりなど、もはやピッコロは良いおじいちゃんとしての立場を引き受けているようだ。終わらない戦いに喜びを見出した悟空とベジータが幸福であるのと同様、悟飯やピッコロもまた、穏やかな日々に自分たちの幸せを見つけたのだといえるだろう。これはシリーズのファンにとって、「ハッピーエンド」の一つを眺めている感覚だ。

 そんな幸せのなかにあって、全開バトルからしばし離れていた悟飯とピッコロが、今回戦うことになるのは、悪の組織「レッドリボン軍」総帥の息子マゼンダが再建する、新生レッドリボン軍であり、天才科学者ドクター・ゲロの孫、ドクター・ヘドが新しく開発した、新たな人造人間たちである。

 興味深いのは、マゼンダがドクター・ヘドを仲間に引き込むために、走行する車の中で交渉する場面の異様な長尺だ。前作がスピーディーな展開で目まぐるしく駆け抜けていったことを考えると、本作は余裕を持ったシフトチェンジによって、わざと会話をじっくりと見せていく演出を提示することによって、アクションシーンの連続を望む観客の期待をあえて裏切ってみせるのである。

 鳥山脚本、そして児玉監督の演出では、このような意図的な“外し”による意外性で観客の心理を引っ張っていく。いまでは地球や宇宙を守る戦士たちのなかでも慎重な性格で調整役となることも多いピッコロが、レッドリボン軍の秘密基地に潜入して諜報活動を行うなど、スパイ映画としての面を見せるのも面白い。この前半の脚本、演出の呼吸は絶妙で、大筋では成功してるといえるだろう。とはいえ、マゼンダとドクター・ヘドの会話そのものが魅力的だったかどうか、ピッコロの潜入シーンが、『ドラゴンボール』シリーズならではの魅力に溢れているというわけではないことも確かだ。この方向性では、海外の映画の脚本や演出を凌駕することは困難である。

 さらに問題は、この後の物語の展開が、あまりにもありきたりなものであったことだ。ドクター・ゲロが開発してい生物兵器「セル」を、ドクター・ヘドがさらにパワーアップさせた「セルマックス」が誕生すると、その巨大な怪物は唸り声をあげながら暴れ回り、悟飯やピッコロたちが力を合わせて倒そうとするのである。この展開については、人気アニメの劇場版でよく見られた、大味な内容そのものとなっていると感じさせるところだ。

 『ドラゴンボール超 ブロリー』も、そういった目で見れば、同じように大味な内容に映るかもしれない。しかし、暴走するブロリーの複雑な事情を前もって観客に見せていることで、そこでの全開バトルに様々な感情を与えることができているのである。ブロリーはもともと、鳥山明の手を離れた、映画版オリジナルキャラクターだったが、新たな鳥山脚本により、その人間性は飛躍的に奥行きが出たといえるだろう。これはさすが鳥山明といえる仕事である。

 それと比較すると本作は、ドクター・ヘドや人造人間にはある程度の複雑な事情を持たせてはいるものの、セルマックスは“敵の大ボス”以上の何ものをも感じないのである。少なくとも原作漫画のこれまでの悪役は、その全てが魅力的で人間味があったことを考えると、この点については、本当にあの鳥山明の仕事なのかと、残念な気持ちに囚われてしまう。

 このように、本作は評価できる点や疑問を感じる点が、いくつも混在しているため、一作の映画として手放しで評価したり、逆に厳しく批判するようなものにもなっていないといえるだろう。とくに新しい趣向や挑戦があるからこそ、問題が噴出してしまっている箇所については、ポジティブに受け止めたいところだ。とはいえ、「傑作」といえる前作の域には遠い出来であったことも確かである。

 だが、問題点は問題点として、後続の作り手たちがそれらを基に次に繋げられるという意味では、本作ほど参考になる作品も珍しいだろう。それほど本作には、様々な新しい試みが存在しているのだ。その姿勢は、間違いなく現在のアニメーションに必要なものなのである。

■公開情報
『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』
全国公開中
原作・脚本・キャラクターデザイン:鳥山明
監督:児玉徹郎
作画監督:久保田誓
音楽:佐藤直紀
美術監督:須江信人
色彩設計:永井留美子
CGディレクター:鄭載薫
出演:野沢雅子、古川登志夫、久川綾、堀川りょう、田中真弓、草尾毅、皆口裕子、入野自由、神谷浩史、宮野真守、ボルケーノ太田、竹内良太
配給:東映
(c)バード・スタジオ/集英社 (c)「2022 ドラゴンボール超」製作委員会
DRAGON BALL公式サイト:dragon-ball-official.com
DRAGON BALL公式Twitter:@DB_official_jp
映画公式サイト:2022dbs.com
映画公式Twitter:@DB_super2015



関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる