又吉ワールドの複雑さをどう受け止める? 吉岡里帆ら主演ドラマ『椅子』の楽しみ方

ドラマ『椅子』で堪能する作家・又吉の複雑さ

「椅子がない世界を想像するだけで疲れる。椅子がある世界を想像すると物語になる」

 こんなナレーションで始まる『WOWOWオリジナルドラマ 椅子』は、作家としても高い評価を受けるピースの又吉直樹がオリジナルで脚本を書き下ろした全8話のオムニバスドラマ。吉岡里帆、モトーラ世理奈、石橋菜津美、黒木華の4人が2話ずつまったく異なる主人公を演じる。

 4人の脇を固めているのは、岩崎う大(かもめんたる)、銀粉蝶、堀田真由、河合優実、石井杏奈、吉村界人、白鳥玉季、ジャガー横田、中村蒼、ムロツヨシ、穂志もえか、アンミカら個性的な面々。特に第8話に登場するアンミカは、「こういうアンミカの使い方があったのか!」と手を打ちたくなるようなキャスティングだった。

 このドラマのもう一つの主人公は「椅子」だ。1話につき1脚の実在する著名なヴィンテージチェアが登場し、その椅子の成り立ちや特性がストーリーに織り込まれている。ドラマのエンディングでは、又吉自身のナレーションによって登場する椅子の由来が語られているので、ドラマの内容と照らし合わせながら椅子とストーリーの関わりなどを考察してみるのも楽しいかもしれない。

 もともと又吉の椅子への偏愛ぶりはよく知られており、自ら編集長となって椅子をテーマにした雑誌『又吉直樹マガジン 椅子』(ヨシモトブックス)をつくってしまうほど。10脚以上所有している椅子は大きさもデザインも異なっており、それぞれに座ることで考え方や本の読み方も変わってくるという。今回の脚本は、本作の椅子監修をつとめる萩原健太郎が50脚の名作椅子の背景を紹介した書籍『ストーリーのある50の名作椅子案内』(トゥーヴァージンズ)などもひもときながらアイデアを練っていった。

 第1話「電球を替えたい」は、恋人に激しくなじられ、うなだれている菜奈(吉岡里帆)に、通りがかった進(岩崎う大)が思わず声をかけるところから物語が始まる。菜奈を励ますかのように他愛のない話を続ける進は、部屋の電球を替えるための椅子がないと言う菜奈に自分の椅子を貸そうとする。しかし、彼らはそれぞれ人に言えない秘密を抱えていた。

 第2話「最高の日々」は、良美(吉岡里帆)と同じ名前の読み方の同級生、佳美(吉岡里帆)の物語。地味な生活を送る良美と、華やかな生活を送る佳美。だが、良美が母(銀粉蝶)に電話で報告する近況の中身は、佳美のものとすり替えられていた。ある日、佳美に呼び出された良美は、自分になりすますのをやめるよう告げられるが……。

 第1話と第2話をあえてジャンルでカテゴライズすると、第1話はほのぼのとした会話劇、第2話はサスペンス要素のあるドラマということになる。先の読めない展開とあっと驚くラスト、人間の裏表が描かれているところが共通点だろうか。2本の短編映画を観ているような趣きがあり、決してわかりやすくはないが、たしかな余韻と異物感がある。

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