『コタローは1人暮らし』の根底にある鮮烈なメッセージ 釘宮理恵が孤独感を繊細に表現
本作はそんなコタローを中心に人と人との繋がりが描かれたヒューマンコメディとしての側面があり、登場人物は皆コタローに無償の愛を向けている。ただ同じアパートの住人というだけで……だ。
例えば、4歳児のコタローが一人暮らしを始めた理由を周りの大人たちは決して深入りしない。普通であれば詮索したり、不審に思ったりするはずだが、狩野をはじめ、アパートの住人は一様にコタローを優しく迎え入れる。狩野に関して言えば、コタローを幼稚園へ送り迎えをしたり、銭湯に付き添ってあげたりと、コタローへの関わり方は親そのものだ。それは単に幼い子供が相手だからという理由だけではない。狩野にとってコタローの生き様は、自分自身の生きる原動力にもなっているのだ。
現代は核家族化が進み、さらには本作で描かれているような近隣住人とのふれあいが薄れていっているのが現状だ。しかし、人とつながっていたいという欲求は昔からずっと変わっていない。私たち人間はやはり他者とのつながりなしでは生きてはいけないのだ。本作は他人との接点をなかなか見いだせないでいる現代社会に生きる私たちにひだまりのようなぬくもりを感じさせてくれる。
また、本編ではコタローには両親からネグレクトや虐待にあっていた過去の描写がたびたび描かれている。自分のせいで父親が悪者にされたのだと思い込み、将来また一緒に暮らすために強くなることがコタローの目標だ。辛い過去を背負いながらも、一生懸命に生きることを強く志向するコタローの姿勢は、大人であればきっと共感するだろうし、自分も強く生きなければと背中を押してくれるのではないだろうか。
ほっこりとするヒューマンコメディという体裁を保ちながら、鮮烈なメッセージを暗に伝えている『コタローは1人暮らし』。ドラマ版とは異なり、原作の温度感を残しつつ、豪華な声優陣のキャラクターボイスが登場人物を生き生きと動かしており、感情移入しやすいのもアニメ版の特徴だ。誰もが忘れかけた人との優しいつながりを、本作を通して思い出してみてはいかがだろうか。すでにNetflixで全話配信されているので、コタローの成長と、それを優しく見守る大人たちの関係にぜひ注目してほしい。
■配信情報
『コタローは1人暮らし』
Netflixにて独占配信中
キャスト:釘宮理恵、増田俊樹、早見沙織、諏訪部順一、花守ゆみり、斉藤壮馬、石川界人、森嶋優花、篠田みなみ
監督:牧野友映
原作:津村マミ
キャラクターデザイン:木村友美
シリーズ構成:佐藤裕
アニメーション制作:ライデンフィルム