『劇場版 Free!』に込められた“感謝”の思い 観客の心を動かす京都アニメーションの信念

『Free!』に込められた“感謝”の思い

「思いを繋げる」

 『劇場版 Free!-the Final Stroke-』後編を観終わった後に、真っ先に脳裏に浮かんだ言葉だ。近年の京都アニメーションを語る際、いつもこの言葉が浮かび上がる。八田英明社長をはじめ、京都アニメーションは何度も、ことあるごとに、この言葉を発してきた。そしてこの言葉は作品にこもり、多くのファンへと届いていくのではないか。今回は『劇場版 Free!-the Final Stroke- 後編』に込められた思いについて、考えていきたい。

 本作は2013年にテレビアニメの放送が始まった『Free!』シリーズの最終章となる作品だ。岩鳶高校水泳部を舞台に躍動する主人公の七瀬遙や、幼なじみでありライバルである松岡凛をはじめとしたキャラクターたちが、水泳に青春をかけていく姿を描き出す。テレビシリーズは3期まで、劇場版は前日譚にあたる『映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』など、前後編の作品も数えると7作品が制作されている人気シリーズだ。

 『劇場版 Free!-the Final Stroke-』は、高校を卒業して世界を舞台に戦うことになった七瀬遙たちを描いている。世界大会の厚い壁を乗り越えて、多くの日本のライバルたちと共に、世界最強の水泳選手であるアルベルト・ヴォーランデルなどとの勝負を繰り広げていく。

 そう説明すると、熱いスポ根アニメと思われそうだ。もちろん、そのような要素もあるものの、どちらかといえば勝負の勝ち負けというよりも、七瀬遙と松岡凛をはじめとした、各キャラクターの関係性と心情の変化を丁寧に扱った作品である。

 特に遙と凛は、お互いに誤解を抱えながらも、幼い頃から思い合う友情に篤い姿は、人が人を想うことの尊さを感じることだろう。今作でも中盤のナイトプールでの2人が話し合うシーンは、これまでのドラマを経て2人の想いが集約された名場面といっていい。画面の美しさとともに、不器用で相手に想いを伝えるのが苦手な遙と、それを受け止めるある種のヒロインのような存在である凛の友情のドラマなのだと、再確認させられた。

 アニメスタジオの個性は画面の演出に宿りやすい。例えば『鬼滅の刃』で有名なufotableであれば、CGと撮影技術を駆使したハイスピードで展開されるアクション作画が思い浮かぶだろう。Netflixでの配信が開始された『バブル』などのWIT STUDIOであれば、空間的な自由自在に浮遊するようなアクション表現であり、SHAFTであれば『化物語』や『魔法少女まどか☆マギカ』などのような、抽象表現が思い浮かぶ。京都アニメーションであれば、写実的な風景描写であったり、あるいは人間描写が、特に話題に上がりやすい。

 同時に、京都アニメーションの作品には、それぞれの作品ごとの個性がありながらも、物語を通して伝えたいメッセージ性すらも根底の部分では同じ作品が多い。例えば『Free!』シリーズでは水泳のリレーを通して“他の人に繋げる”という団体行動の尊さを描いているが、これは協奏が重要な吹奏楽部を舞台にした『響け!ユーフォニアム』と同じメッセージだ。

 あるいは平和への祈りや、他者を想うことの尊さを描いた作品という意味では、『小林さんちのメイドラゴン』シリーズと『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に共通するものがある。これらは原作の要素をうまく拾い上げながらも、すでに物語における作家性、あるいは個性と呼べるほどにまで、深く浸透している。

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