『劇場版 Free!』に込められた“感謝”の思い 観客の心を動かす京都アニメーションの信念

『Free!』に込められた“感謝”の思い

 これは京都アニメーションが、自社で原作から公募を行い、映像化したい作品を集めたということもあるだろう。また原作の改編を恐れず、大胆な脚色を行うことも由来しているのではないだろうか。原作のみならず、監督や脚本家が変わっても、変わらないメッセージをスタジオ単位で発揮し続け、それが作家性と呼ぶべき深い個性になることは、他のスタジオではあまり見られない現象といえる。

 このことを象徴するシーンがエピローグにある。ここでは登場人物が映し出された映像を見ながら「この映像はみんなが作ってきたものを、ただ自分が編集しただけだ」と語るシーンがある。これはまさしく『Free!』シリーズにいえることではないだろうか。

 『Free!』は原作者のおおじこうじが描いた作品を、内海紘子、武本康弘などが監督として映像化し繋いできた。そして河浪栄作がTVシリーズ3期と、他の映画と共に監督してきた。もちろん、監督以外にもアニメーターや多くのスタッフが携わってきた作品であり、全員で「思いを繋ぐ」結果、生まれた作品である。

 そしてこの「思いを繋いで」きたのは、監督やアニメーターだけではない。それは制作を支えるそのほかのスタッフもそうであるし、さらに言えばファンも同様ではないか。プレイヤーでなくても、指導する立場の人、マネージャーなどの支える人、そして応援するファン、全員で繋いだ結果が、この映画には示されている。その力強いメッセージは、すでにスタジオの個性をレベルを超え、理念や思想と呼べるレベルにまで昇華されている。

 本作は『Free!』シリーズ最終章ということもあり、ファンに伝えたい思いと感謝がたくさん込められている作品と感じた。これほどのファン思いの作品は、アニメ映画多しといえども、そこまで多くはない。これこそが京都アニメーションの作家性ともいうべき、物語に込められたメッセージであり、人々の心を動かす秘密なのではないだろうか。

※島崎信長の「崎」はたつさきが正式表記

■公開情報
『劇場版 Free!-the Final Stroke-』後編
公開中
声の出演:島崎信長、鈴木達央、宮野真守、内山昂輝、細谷佳正、豊永利行、木村良平、代永翼、平川大輔、宮田幸季、鈴村健一、野島健児、日野聡、鈴木千尋、小野大輔、草尾毅、木内秀信、JEFF MANNING
監督:河浪栄作
主題歌:「This Fading Blue」
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:岩鳶町後援会2021
配給:松竹
(c)おおじこうじ・京都アニメーション/岩鳶町後援会2021
公式サイト:http://iwatobi-sc.com/
公式Twitter:@iwatobi_sc

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