『カムカムエヴリバディ』がくれた“日々鍛錬する”私たちへのプレゼント 総集編本日放送
5月4日、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』総集編がNHK総合にて放送される。上白石萌音演じる安子、深津絵里演じるるい、川栄李奈演じるひなたによって紡がれた100年の物語が、新たな編集によって1本の別の作品としても楽しめるほどになっているとのこと、楽しみでならない。藤本有紀が脚本を手掛ける本作には、たくさんの、今を生きる「私たち」へのメッセージが詰まっていた。これまでの全てが詰まったひなた編の終盤をメインに、その一つ一つを振り返ってみたい。
本作の特徴の一つとして、戦前から現代までの人々の生活史を描くと同時に、人々の生活に直結する、ラジオやテレビ、映画や歌謡曲、当時の流行、そして何より時代劇と朝ドラの変遷を描くという形で、日本の文化史を描いたことが挙げられる。特に印象深かったのは、主にひなた編で描かれた、「人々と朝ドラ」のエピソードである。朝ドラファンの錠一郎(オダギリジョー)を中心として、大月一家の朝食はいつも朝ドラとセットであり、テレビ画面に映る朝ドラの変遷によって、時の移り変わりが示されたりもした。
だが、何より「人々と朝ドラ」の風景は、「時間」だけでなく、「視聴者と朝ドラとの関係」を映し出した。喜びも悲しみも、後悔も全て抱えて生きてきた雪衣(多岐川裕美)は「たった15分、半年であれだけ喜びも悲しみもあるんじゃから、何十年も生きとりゃあ、いろいろあって当たり前」と言った。ひなたは、自分と共通点の多い朝ドラ『オードリー』のヒロインの生き方を通して、自分のこれからの人生を考えていた。ちょうど、『カムカムエヴリバディ』のヒロインたちの人生を通して自分のこれまでの人生を顧みたり、これからの人生を考えたりした、私たち視聴者と同じように。
安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)が歩いた日なたの道。対する、孤独な錠一郎少年(柊木陽太)を包み込んだ大きな月と「大月」という苗字。家族がこよなく愛し、家族を繋げたルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」。対する棗黍之丞の決め台詞「暗闇でしか見えぬものがある」。映画スター・モモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)と、スターを輝かせる敵役・伴虚無蔵(松重豊)。ひなたと、ひなたが眩しすぎた五十嵐(本郷奏多)の恋の終わり。店に飾られた、かつて「世紀の駄作」と言われた映画のポスターの裏面の、関西一のトランぺッター「大月錠一郎」のサイン。本作はたくさんの太陽と月、陽と陰のコントラストを思わせる符号で溢れていた。
でも、ラストは、それぞれのやり方で「日々鍛錬し、いつくるともわからぬ機会に備え」てきた全ての人々の人生が報われ、日が当たることで締めくくられた。まさに「日なたの道を歩けば、きっと人生は輝く」を体現した終盤だった。また、朝ドラ『おちょやん』におけるヒロインの父・テルヲ(トータス松本)らと同じ系譜にある「厄介な身内」算太(濱田岳)の人生の最後のハイライト、クリスマスの商店街でのダンスシーン(第94話)が、彼のこれまでの人生だけでなく、岡山編から京都編全てを繋ぐ総括とも言える大団円を示したと同時に、おもちゃのトランペットを吹く少年と、ピアノを弾く錠一郎の図を通して、錠一郎の過去現在未来を照らす大きな意味のある出来事になったのも、「根っからの悪人が1人も登場しない」、全ての登場人物の描き方に愛がある藤本脚本を象徴する場面だと言える。