国仲涼子『ちゅらさん』の“真正直”パワーは今こそ必要! 総集編放送に寄せて

『ちゅらさん』の真正直パワーは今こそ必要

 21世紀の始まりと共に放送を開始し、一大沖縄ブームを巻き起こした『ちゅらさん』(NHK総合)の総集編が5月3日より放送中だ。

 2001年4月〜9月に「連続テレビ小説」40周年記念作品として放送された本編に続き、「夜ドラ」として続編が3作も制作されるほどの人気シリーズとなった本作品。劇中では「ヒロインの兄・恵尚(ガレッジセール・ゴリ)が大量に作って失敗した」という設定のゴーヤーマンのキーホルダーが、実際には公式グッズとして売れに売れ、ロケ地の小浜島は観光客が倍増した。「社会現象を呼んだ朝ドラ」という点において『おしん』(1983〜1984年)や『あまちゃん』(2013年)と肩を並べる存在と言える。

 『ちゅらさん』は2000年の沖縄サミットの翌年に放送されたが、1996年のSACO合意以降も永年続く(そして今なお収束しない)基地問題に触れるわけでもなく、沖縄の戦後史に基づく社会的メッセージも見当たらない。太陽のように明るいヒロイン・古波蔵恵里(通称えりぃ/国仲涼子)と、彼女が愛する沖縄の家族、そしてえりぃが東京で出会う人々が織りなす「青春群像劇」であり、穏やかでゆる〜い日常がコメディタッチで展開していくドラマだ。

 当時、こうした、内地の人間が思い描く“ユートピア・沖縄”をエンターテインメントとして消費することへの批判もなくはなかった。しかし、ここまでのブームになった背景には、やはり時代がこのドラマを求めていたという実情があるのだろう。

 2001年といえば、終わりの見えない経済低迷による「失われた20年」のど真ん中であり、1998年以降14年連続で国内の自殺者が3万人を越えていた最中。加えて、不穏化の一途を辿る世界情勢。そして、ドラマ終盤・第24週「和也の涙(ナダ)」放送中の9月11日の火曜日、アメリカ同時多発テロが起こった。

 この朝ドラに込められていたのは、「こんな時代に、せめて朝ドラを観る15分の間だけは楽しい気持ちになってほしい」という、作り手の祈りではなかっただろうか。

 えりぃは、小学生の頃に出会った初恋相手・文也(小橋賢児)への想いと「結婚の約束」を大人になるまで温め続け、やがて実らせる。すべての登場人物が性善説のもとに行動する「優しい世界」。えりぃが初めて上京した際、新宿の雑踏で偶然文也とすれ違う。そしてのちに偶然再会する。経済的に余裕があるとは言えない古波蔵家の面々が、しょっちゅう飛行機で上京する。飛行機のチケットがおばぁ(平良とみ)の頭上に降ってくる。財布を盗んだ男が温かい沖縄料理に涙を流し、悔い改めて返しにくる……等々のファンタジー的作劇、もっと言えば、いわゆる「ご都合展開」がてんこ盛りだ。しかし制作側は、この「パラレルワールド」を自覚的に描いている。

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