『SPY×FAMILY』を成立させる種崎敦美の演技力　アーニャ役は今までにない挑戦に

　そんな本編でとても重要になるのが、アーニャの存在である。ロイド、ヨル、アーニャの3人の関係性などを含めて俯瞰的かつ構造的に見てみよう。

　黄昏ことロイドは論理的に思考を進めることができるが、「可能性がある」という理由で突飛で斜め上なアイデアを思いついてしまうこともしばしば。ヨルは真面目で温厚に振る舞っているが、心理的な駆け引きはかなり苦手、とそれぞれに一癖ある人物像が描かれている。

　これに対し、アーニャが人の心を読めることが影響してくる。2人の心情を読んで心の中でキレイにツッコんでみせたり、自身の望まない展開になりそうなところで子供らしいワガママで2人を動かしてみせたりと、実はこの2人をコントロールしやすい立場にあるのだ。

　当然、アーニャのような存在は「ストーリー展開を先読みさせる」役割になりやすく、読者・視聴者の視点が彼女に寄りがちになる。主人公はロイドであるのだが、アーニャの存在が物語の語り手・視点を分散させ、「3人の思惑」という本作品の核たる部分を提示する役割を果たしているのだ。

　何より重要なのは、本作品がコメディタッチな作風ということもあり、誰かがツッコミ役としていなくてはオチるところもオチないところ。斜め上な発想をするロイドとヨルに対し、単刀直入なツッコミを入れていくアーニャの役割は、読者・視聴者にとっても展開を飲み込みやすくしてくれる。この作品にとっても要となる存在だ。

　そんな重要な役割を演じるのは、今年でアニメ作品デビュー10年目を迎えた種崎敦美だ。

　『響け！ユーフォニアム2』の鎧塚みぞれ、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のダイ、『鬼灯の冷徹』の芥子、『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』の双葉理央、『Vivy -Fluorite Eye's Song-』のヴィヴィ、『その着せ替え人形は恋をする』の乾紗寿叶、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の五十嵐響子など、さまざまな人気作品で主役・ヒロイン役・脇役を務めてきた彼女。

　第14回声優アワードで助演女優賞を受賞し、その演技力は折り紙付き。年を経るごとに重要なポジションを担うことが増えていったことからも、実力は伺い知れるところであろう。

　種崎が演じたキャラクターといえば、大人しく、温厚、言葉少なで感情表現が少し希薄な役どころを思いだすファンも多いだろうが、上記を見ていただければお分かりのように、溌溂とした性格であったり、どこかピンと気を張っているキャラクターを演じることも多い。

　アーニャは「幼い子供」というだけのキャラクター造形ではない。ピピっと人の心を読むことができる彼女は、孤児院にいたこともあってか「面白いこと」に目がなく、新しい世界・人間との出会いにコロコロと表情を変え、そのリアクション一つ一つに素直さや可愛らしさがある。

　まともな教育を受けたことがないだけではなく、実験体として生まれて逃亡した後は、何度となく施設や里親を転々とし、もしかすれば超能力の影響もあってか他人とコミュニケーションをするのも少しだけ苦手なのかもしれない。

　そんなこともあり、種崎はアーニャを舌ったらずでボヤけた発音で演じているのがミソであろう。原作にあったセリフも種崎が声を当てることで、より幼さを感じさせてくれるのだ。

　喜怒哀楽の振れ幅が大きく、アニメーションがコメディタッチということもあり、1話途中で泣きだしたときに「ボヤァアアアア」という泣きかたになっているのには笑わされてしまった。しかし、だからこそ面白く、彼女にしか演じられないアーニャ像が浮かび上がってくるのだ。

　演技派な種崎敦美にとっても、アーニャ役はこれまでにはあまり演じてこなかった役になるだろう。いくつかのメディアでもその難しさを口にしている彼女だが、2話までを視聴した限り、しっかりと作品性・キャラクターに寄せた演技を示しており、本作でも要の役割を担って作品を盛り上げている。

　今後のストーリーでより心を開いていくことになるアーニャ。そのとき種崎はどのように演じてみせるのか注目していきたい。

※種崎敦美の「崎」は「たつさき」が正式表記。

参照

※ https://www.tv-tokyo.co.jp/kaisha/message/

■放送情報
『SPY×FAMILY』
テレビ東京ほかにて、毎週土曜23:00〜23:30放送中
キャスト：江口拓也、種崎敦美、早見沙織ほか
原作：遠藤達哉（集英社『少年ジャンプ＋』連載）
監督：古橋一浩
キャラクターデザイン：嶋田和晃
総作画監督：浅野恭司
助監督：片桐崇、高橋謙仁、原田孝宏
色彩設計：橋本賢
美術設定：谷内優穂、杉本智美、金平和茂
美術監督：永井一男、薄井久代
3DCG監督：今垣佳奈
撮影監督：伏原あかね
副撮影監督：佐久間悠也
編集：齋藤朱里
音響監督：はたしょう二
音響効果：出雲範子
音楽プロデュース：(K)NoW_NAME
制作：WIT STUDIO×CloverWorks
(c)遠藤達哉／集英社・SPY×FAMILY製作委員会
公式サイト：http://spy-family.net/
公式Twitter：https://twitter.com/spyfamily_anime