W受賞なるか? 第94回アカデミー賞にノミネートされた“パワーカップル”に注目

第94回アカデミー賞のパワーカップルに注目

 「パワーカップル」という単語を最近よく耳にするようになった。日本では「共働きで世帯収入が1000万円以上」など、経済的な面に注目して定義されることが多いが、海外では「両者とも非常に優秀なキャリアを持っているか、政治的・社会的に影響力のあるカップル」という、少し違った解釈をされている。そしてハリウッドには、この定義に当てはまるカップルが数多く存在していることは想像に難くないだろう。今年のアカデミー賞には、そんなパワーカップルが2組もノミネートされており、注目を集めている。ここではそれぞれのカップルにフォーカスを当てながら、賞レースでのポイントを押さえていこう。

そろって主演賞にノミネートされたペネロペ・クルス&ハビエル・バルデム

 ペネロペ・クルスとハビエル・バルデムの夫婦は、それぞれ『Parallel Mothers(英題)』で主演女優賞、『愛すべき夫妻の秘密』で主演男優賞にノミネートされている。ともにスペイン出身で、ハリウッドでのスペイン人俳優のパイオニアともいえる2人だ。

(左から)ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス(写真:REX/アフロ)

 1974年生まれのペネロペ・クルスは1992年、ビガス・ルナ監督の『ハモンハモン』で映画主演デビューを飾った。その後、彼女はペドロ・アルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』(1998年)でエイズに感染したシスターという難しい役を務め、世界的に注目を集める。2000年には『ウーマン・オン・トップ』でハリウッドデビューを果たし、出演作を重ねるごとに存在感を増していった彼女は、2006年の『ボルベール<帰郷>』で、カンヌ国際映画祭女優賞などを受賞。同作でスペイン人女優として初めてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。そして2008年、『それでも恋するパルセロナ』で彼女はついにアカデミー賞助演女優賞を受賞する。これはラテン系女優として2人目、スペイン人俳優として2人目、スペイン人女優としては初めての快挙だった。

 一方のハビエル・バルデムは1969年生まれ。10代の頃はラグビーの世代別スペイン代表チームに選抜されるなど、少し変わった経歴の持ち主だ。1990年に『ルルの時代』で映画デビューを果たした彼は、1992年に出演した『ハモンハモン』でスペイン国内での知名度をあげ、その後はスペインのアカデミー賞といわれるゴヤ賞を複数回受賞するなど、国民的俳優となる。キャリア当初は英語が不得意だったため、なかなか国外の作品に出演することが難しかったバルデムだが、2000年にジュリアン・シュナーベル監督の『夜になるまえに』で、英語作品に初主演。キューバ出身の作家で詩人のレイナルド・アレナスの自伝を映画化したもので、その壮絶な人生を見事に描き出した彼の演技は高い評価を受けた。バルデムはこの作品でヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞。スペイン人俳優として初めてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。その後も2004年に『海を飛ぶ夢』で2度目のヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞するなど、活躍をつづける。そして2007年の『ノーカントリー』でアントン・シガーという映画史上に残る悪役を演じ、スペイン人俳優として初めてアカデミー賞助演男優賞を受賞したのだ。2010年にはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『BIUTIFUL ビューティフル』で、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされている。

(左から)ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス(写真:REX/アフロ)

 ざっとそれぞれの経歴を見てわかるのは、クルスの映画デビュー作である『ハモンハモン』ですでに2人は共演しているということだ。その後1996年の『フレネシ-愛じゃない、それは熱-』でも共演しており、彼らは旧知の仲だった。そして2008年公開の『それでも恋するバルセロナ』で元夫婦役を演じたことがきっかけで、交際に発展したという。彼らは2010年に結婚し、現在は1男1女の子どもがいる。ともにスペイン人俳優としてハリウッドで先陣を切ってきた彼らには、共感も含めて惹かれ合うものがあったのだろう。

 今回のアカデミー賞で注目したいのは、もちろん夫婦でW受賞なるか、というのが1つ。もう1つは、バルデムと『愛すべき夫妻の秘密』で夫婦役で共演しているニコール・キッドマンも主演女優賞にノミネートされているということだ。バルデムはこのことについて、「2人ともいい仕事をした。どちらも応援している」とコメント。一方でクルスのノミネート作『Parallel Mothers』はスペイン語の作品であることにも注目が集まる。というのも英語以外の作品が、特に俳優部門で受賞するのは比較的難しい傾向にあるからだ。クルスは『ボルベール』でも1度アカデミー賞主演女優賞にノミネートされているが、そのときは受賞を逃している。今回はどんな結果になるのだろうか。

キルスティン・ダンスト&ジェシー・プレモンスは共演作でともに助演賞ノミネート

 もう1組、今年のアカデミー賞にノミネートされているパワーカップルは、キルスティン・ダンストとジェシー・プレモンスの夫婦。2人が注目されているのは、共演作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で夫婦役を演じ、ともに助演賞にノミネートされているからだ。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』KIRSTY GRIFFIN/NETFLIX (c)2021 Cross City Films Limited/Courtesy of Netflix

 1988年生まれ、テキサス州出身のジェシー・プレモンスは、3歳から子役としてキャリアをスタートさせた。マット・デイモンやフィリップ・シーモア・ホフマンに外見が似ていることから、『すべての美しい馬』(2000年)では、デイモン演じる彼の幼少期を演じ、2012年の『ザ・マスター』ではフィリップ・シーモア・ホフマン演じるカルト教団の教祖の息子を演じている。彼が人気と知名度を獲得したのは比較的最近で、2012年から2013年に大ヒットドラマ『ブレイキング・バッド』に出演したことがきっかけだった。彼が演じたトッドは、一見心優しい青年にみえるが、ためらいもなく人を殺すなど、どこかちぐはぐなキャラクターだ。そんな役もこなすことができる彼は、子役時代から着実に積み上げてきた技術が、今脚光を浴びている俳優だといえる。

 彼の妻であるキルスティン・ダンストは1982年生まれ、ニュージャージー州出身。3歳からモデルとして活動をはじめ、約70本のCMに出演する売れっ子となった。1989年にオムニバス映画『ニューヨーク・ストーリー』のなかの1編で映画デビューした彼女は、1994年に公開された『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のクローディア役でボストン映画批評家協会賞助演女優賞などを受賞。ゴールデングローブ賞助演女優賞にノミネートされ、天才子役としてさらに注目を集めるようになる。その後も出演作は途切れず、『ジュマンジ』(1995年)やソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)、『チアーズ!』(2000年)、サム・ライミ監督による『スパイダーマン』3部作、『マリー・アントワネット』(2006年)などに出演。そして2011年にはラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』に主演し、カンヌ国際映画祭で女優賞を獲得した。彼女ほど子役から若手、そして大人の俳優へと、常にトップで活躍してきた俳優は少ないのではないだろうか。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』IRSTY GRIFFIN/NETFLIX (c)2021 Cross City Films Limited/Courtesy of Netflix

 そんな2人が出会ったのは、2015年に放送された人気テレビシリーズ『FARGO/ファーゴ』シーズン2でのことだった。このシリーズはシーズンごとにキャストを総入れ替えし、物語の舞台も内容も変わる方式だ。そこでプレモンスとダンストは夫婦を演じることになる。この共演がきっかけで彼らは交際をはじめ、2017年に婚約。2018年には第1子が、2021年には第2子が誕生した。プレモンスの知名度が上がってきたことや、カップルになったのが比較的最近だからか、バルデムとクルスの夫婦などに比べて、あまりカップルであることが知られていないかもしれない。

 彼らが再び共演することになったのが、今回ともに助演賞にノミネートされている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』だ。しかも初めて共演したときと同じ、そして実生活とも同じ夫婦役。夫婦で助演賞を独占できるのかに、ぜひ注目したい。

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