『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』が描く平和への願い 85年版からの見事な脚色

『のび太の宇宙小戦争』が描く平和への願い

 また映画冒頭、原作と1985年版では姿を見せずにパピの声だけで進行していたものがあえて姿が映しだされることを筆頭に、劇中ではパピが観客にとってものび太たちにとっても明確かつ非常にわかりやすいかたちで“共感できる存在”となるような脚色がいくつも施されていくのだ。ひとつは新キャラクターとして登場するパピの姉ピイナの登場。これによってパピは星を背負う大統領というよりも、大切な家族を守りたい1人の少年であることが強調される。そして原作では敵の長官ドラコルルに自ら捕らえられにいくパピをのび太たちが救出に向かったのだが、本作ではピイナが捕らえられることでパピはのび太たちと行動を共にすることになる。その過程でスネ夫に心情を吐露するシーンは非常にわかりやすい。またパピの愛犬ロコロコが、ファクトをひたすら述べる“よく喋る犬”から比較的感想の割合が多い“意外とおしゃべり”な犬になっているのも親近感を強める役割を担う、まさに理想的な忠犬だ。

 これらのような脚色によってのび太たちとパピとの距離感が近くなることを通し、両者の異なる部分は“大きい”“小さい”という視覚的なものにより委ねられることになる。もっともこれは大長編ではお馴染みの『ガリバー旅行記』的な視点であり、アニメーションの作画的な妙味は最も発揮される部分であろう。そして同時に、異なる部分を均一化し、両者を結びつける重要な役割を持つ「スモールライト」のポジションも大きくなっている。原作と1985年版ではパピを助けることに付随して、スモールライトを取り返すことができれば楽になる程度だったのに対し、今回はドラえもんの大きな目標のひとつとしてスモールライトの奪還が掲げられるのも納得である。ここもまた、行動原理の明確さが求められた結果といえよう。

 大きな脚色、かつ作画的な妙味として挙げるのであればクライマックスシーンも忘れてはならない。処刑台が屋上に設けられたのは、そこに駆けつけたのび太が落下した瞬間にスモールライトの効果が切れて巨大化するところをダイナミックに見せるためであろう。それを実現するために、のび太を単独で行動させる必要があり、スモールライトの奪還作戦を描く必要があったとも見ることができる。この一連においてのび太をある種のヒロイックに見せようとする様も現代で求められる映画情緒のひとつなのだろう。いずれにせよ、のび太が単独行動するきっかけを作るのが「石ころぼうし」であり、のび太はそれを被るとなかなか外すことができないというのはコミックスの4巻第16話、石ころぼうしの初出エピソードへのオマージュというわけだ。

 37年も時間を経てのリメイクともあれば大きく変わることは当然で、とりわけオリジナルに入れ込んだ世代にとってはそれが非常に目に付くということは、これまでのリメイク作品からも承知の上だ。1985年版にあったハリウッド大作への憧憬ともとれるオマージュの数々が再現されなかったのは残念なところではあったが、なんにせよこれをいまの子供たちが観て純粋に楽しみ、いずれ大人になってからふとこの作品に込められた平和の願いや藤子・F・不二雄イズムをふと思い出してくれればそれだけでいい。『ドラえもん』の映画は一度観たら一生終わらないのだから。

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:山口晋
脚本:佐藤大
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、香川照之、松岡茉優、朴ロ美、梶裕貴、諏訪部順一、内海崇(ミルクボーイ)、駒場孝(ミルクボーイ)
主題歌:Official髭男dism「Universe」
配給:東宝
(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2021
公式サイト:https://doraeiga.com/2021/

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