『映画ドラえもん』新作のタイトルはなぜ“新”恐竜なのか 新たなイメージの構築は成功?

『映画ドラえもん』なぜ“新”恐竜なのか

 新型コロナウイルスによる相次ぐ公開延期を経て、大型アニメ映画は『ドラえもん』から再開する。国民的な人気作品であるだけでなく、アニメ映画界の優等生といえるほどの万人に向けられた教育的な優しい視点など、日本アニメを象徴するシリーズだ。先陣を切ることに対して、これ以上にふさわしい作品はないのではないだろうか。そして2020年は『ドラえもん』が1970年1月号に誕生してから50周年を迎える。その記念として公開された『映画ドラえもん のび太の新恐竜』は、初週に動員ランキング1位を記録するなど、新型コロナウイルスや座席数の半減の影響がある中でも、ファミリー向け映画として健闘していると言える。今回は『のび太の新恐竜』の魅力と、タイトルに込められた思いについて迫っていきたい。

 今作は監督に今井一暁、脚本に川村元気という『ドラえもん のび太の宝島』で力を発揮したコンビが、再びタッグを組んだことも話題となっている。『のび太の宝島』はキャラクターたちの生き生きとした動きが魅力的な作品であり、作画技術の高さに驚きを隠せなかったが、今作ではさらに上を目指し、越えてきた印象だ。音楽と映像を合わせた快感の強いシーンがいくつも散見され、 主題歌であるMr.Childrenの「Birthday」と共に、のび太たちが新恐竜であるキューとミューと共に動き回る姿に心が躍るような思いをするだろう。

 そういった派手な演技以外の作画パートも見どころだ。日常的な芝居の場面でもフルアニメーションかと思うほどに動き回り、それら1つ1つの描写に見入ってしまう。特に話題となったのが、予告でも使われているスネ夫が指パッチンをしながら冒険の旅に出ようとする場面だが、タイミングの取り方など含めて、高い快楽性がある。それらが特別な部分だけでなく、一見すると普通の日常表現の場面でも楽しめるため、作画技術に注目する方向けの作品としても楽しめるのではないだろうか。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』予告編【2020年8月7日(金) 公開】

 それらの繊細な作画技術が最も発揮されたのが、キューとミューの芝居だ。新種の恐竜ということもあり、2匹は喋れることができないものの、恐竜の子どもとしてデフォルメ化されたキャラクターデザインに一目で魅了されてしまい、のび太が必死になって守りたい、離れたくないと思う気持ちが伝わってくる。またキューの声優を務めた遠藤綾、ミュー役の釘宮理恵も言葉を発せないながらも感情が伝わる声の演技により、知らず知らずにペットというよりも、わが子を見守るような気持ちになっている。

 ドラえもん映画は、子どもたち向けのファミリー映画として優等生な一面があり、毎年教育的な描写が含まれているが、今作では“未知なるものへの向き合い方"が描かれていた。生まれたばかりの新恐竜であり、何を食べるのかも、病気になった時にどのように行動すればいいのかわからない中で、自発的に有識者に話を聞きにいき、自分の知恵を振り絞って解決していく姿に、子どもたちも大きな問題にぶつかった際の行動など、感じるものがあるのではあるのではないだろうか。また、動物や子どもを育てることの大変さなどが伝わってくると同時に、共に劇場に向かった親世代の方々も我が子の成長過程を思い浮かべるだろう。

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