GG賞受賞『ドライブ・マイ・カー』オスカー受賞なるか 過去成績からその可能性を占う

 さまざまな問題を抱えたまま、極めてひっそりとしたかたちで発表された第79回ゴールデ
ングローブ賞。その受賞結果の詳細についてはこちらの記事(参照:『ドライブ・マイ・カー』が非英語映画賞に 第79回ゴールデングローブ賞受賞結果を総括)で触れられていたのでそちらを踏まえるとして、当記事では日本中が大きな注目を寄せている、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞で“どこまでやれるのか?”ということを主な軸にしながら、第94回アカデミー賞の展望をまとめていこうと思う。

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 まず初めに断言できるのは、『ドライブ・マイ・カー』は第94回アカデミー賞の国際長編映画賞(かつての外国語映画賞)にほぼ確実にノミネートされ、受賞可能性においても最有力の位置にあるということだ。先日日本でも大きな話題となった全米批評家協会賞(名前からしてかなり有力な前哨戦に思われがちだが、オスカー向き作品と正反対のアート作品を選ぶことも多く、特別信頼度の高い前哨戦ではないことは触れておきたい)での4冠をはじめ、アカデミー賞の前哨戦として知られる各地の批評家協会賞で旋風を巻き起こしている同作だが、たしかに作品賞などの主要部門でも善戦を見せているとはいえ、その主戦場はやはり外国語映画のための部門である。

 一昨年にポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が歴史的な偉業を成し遂げ、昨年は韓国語作品である『ミナリ』が候補入りを果たし、中国出身のクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が作品賞と監督賞を受賞。アカデミー賞において東アジアの力が大きくなっていることはあえて説明に必要もないだろう。国際長編映画賞においても、昨年は香港の『少年の君』がノミネートを果たし、『万引き家族』から3年連続で東アジア圏の作品がノミネートを果たしている“勢い”は『ドライブ・マイ・カー』にも追い風になっている。

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 先立って発表された国際長編映画賞のショートリスト(第一次選考の結果で、例年は9作品だが今年は15作品であった)にも危なげなく残り、一方でカンヌでパルムドールを獲ったフランスの『Titane(原題)』やベルリンで金熊賞を獲ったルーマニアの『アンラッキー・セックス』あたりの有力作品は落選。前哨戦の動向を見る限り、イタリアの『The Hand of God』とイランの『A Hero(原題)』、そしてデンマークのアニメーション兼ドキュメンタリーの『Flee(原題)』の3つも安定株で、残りひと枠をノルウェーの『Worst Person in the World(原題)』とコソヴォの『Hive(原題)』、フィンランドの『Compartment No.6(原題)』が争う感じといった印象だ。

 『ドライブ・マイ・カー』がこの部門で受賞を逃す筋書きとして考えられるのは「作品賞入りを果たしてそちらに票が流れる」という前向きなパターンと、「長尺が嫌われる」という後ろ向きなパターン。後者についてだが、この部門で2時間半を超える上映時間の作品が受賞を果たしたのは29年前の『インドシナ』(159分)が最後。元々は対象作を全部劇場鑑賞しなくては投票できないルールがあったため、長尺作品は比較的忌避されがちだった部分も否定できない。近年ではルール改正によってストリーミング視聴も可能となっただけに、長尺作品への不利は少なくなったはずだ。

『ドライブ・マイ・カー』(c)2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

 では、他の主要部門ではどうだろうか。現時点で国際長編映画賞の次に可能性が高いのは脚本部門、村上春樹の短編小説が原作の本作は脚色賞の対象だ。すでにロサンゼルスやボストンなどの批評家協会賞で脚本部門を制し、なによりもカンヌでは脚本賞を受賞している以上、その評価の高さはお墨付きだ。しかしネックとなるのは、カンヌ脚本賞とアカデミー賞の脚本部門がほとんど直結しないということである。遡ってみれば、アカデミー賞に駒を進めることができたのは2003年のカナダ映画『みなさん、さようなら』の1本のみ(同作は脚本賞であった)。

 そもそも非英語作品の脚本部門候補入りというのはどうしてもハードルが高く、近年は『ROMA/ローマ』『パラサイト』『ミナリ』と3年連続で脚本賞には候補入りをしているが、脚色賞は英語作品への傾きが極めて大きい。そこにはオリジナルの知名度も関係しているのだろうか、それならば村上春樹のネームバリューなら問題にはなるまい。また、横の比較でいえば『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の一強ムードとなっていることから残すノミネート4枠はかなりの混戦模様。前哨戦を2番手、3番手あたりで追走している『ドライブ・マイ・カー』は充分に戦える位置にいると見える。

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