尾上菊之助、『カムカム』“モモケン”の絶妙な演じ分け 3世代ヒロインを繋ぐ存在に

尾上菊之助、“モモケン”の絶妙な演じ分け

 錠一郎(オダギリジョー)の膝の上に乗りながら一緒にテレビで時代劇を観て育ったひなた(新津ちせ)は、根っからの時代劇ファンで、常に腰に刀のおもちゃを下げた侍に憧れる女の子に育つ。

 『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第14週では、そんなひなたにとって念願だったモモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)との初対面が叶う。袋いっぱいに詰め込まれた大月の回転焼きを差し出すひなたの姿に、彼女がどれだけ楽しみにこの日を待ち侘びていたのか、さらには憧れ続けた人との対面にかける意気込みや気合までもが伝わってきた。

 3世代に渡るヒロイン全員に関わりがあるのは、ルイ・アームストロングの「On The Sunny Side Of The Street」だけでなく、どうやらこの銀幕の大スター“モモケン”も大いにキーパーソンになるようだ。

 遡ること、安子(上白石萌音)編では、兄の算太(濱田岳)が映画館に通い詰めていた頃に、ちょうど“モモケン”がデビューしたことも描かれた。そして何と言っても2代目ヒロイン・るい(深津絵里)と錠一郎が初めて一緒に観た映画はモモケン主演の『妖術七変化 隠れ里の決闘』だった。「日本映画史上稀に見る駄作」との前評判にもかかわらず、錠一郎は本作ですっかりモモケン及び時代劇の虜になる。この後も事あるごとに登場する「暗闇でしか見えぬものがある、暗闇でしか聴こえぬ歌がある」とは、作中のモモケンの台詞だ。関西一のトランペッターを決めるコンクール出場を控えていた錠一郎の緊張を解きほぐしたのは他でもないこの言葉であり、これまで自分の“全て”だったトランペットを失った錠一郎にとって唯一心惹かれるのが時代劇でありモモケンだったのだ。

 ひなたが産声を上げた時にちょうどそんなモモケンの世代交代が発表されるのもまた縁を感じずにはいられない。息子・桃山団五郎(尾上菊之助)が父・剣之介を襲名し、2代目・桃山剣之介が時を同じくして誕生したのだった。映画界にこだわった銀幕のスターだった父親に対して、2代目は映画からテレビに主戦場をシフトし、時代劇映画の『棗黍之丞見参』シリーズのテレビ放送で主演を務め、人気を博した。

 2世代に渡ってモモケンを演じている尾上菊之助は、本作が朝ドラ初出演。よく見ると2代目にはホクロがあったり、顔つきも心なしかマイルドな気がするが、そんな世代を超えての繋がりを感じさせながらも、それぞれの個性を見事に確立している。刀さばきや所作の美しさはさすがである。

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