『コンフィデンスマンJP 英雄編』古沢良太の巧みな脚本 構えていてもしっかり騙される

『英雄編』古沢良太脚本の巧みさ

 もちろんこれは役者の力も大きいだろう。ダー子を演じる長澤まさみを筆頭に、『コンフィデンスマンJP』に出演する役者たちは実に活き活きと演じており、とても楽しそうである。

 「演じることで何かを掴もうとしている」という意味において、信用詐欺師と役者はどこか重なるものがある。「子猫ちゃん」と呼ばれるダー子に協力する信用詐欺師たちは、映画でいうとエキストラのような存在で、オサカナを釣り上げるために巨大なセットを組んで舞台を作り上げる姿は、演劇や映画を作り上げる行為とそっくりである。

 元締めのダー子は役者兼演出家の“座長”と言える存在だが、この『英雄編』が面白いのは、ダー子とボクちゃんとリチャードが対立することで、3人の役者兼演出家が同時に舞台に立ち、物語の主導権を奪い合っているように見えることだ。

 つまり本作では、複数の物語が同じ舞台で同時展開されており、主役と思った人間が次の瞬間には脇役に変わり、脇役と思った人間がいつの間にか主役の座に躍り出るといった転換が数分おきにおこなわれる。

 信用詐欺師のコンゲームの中に「演技と物語」にまつわる哲学的なテーマが内包された『コンフィデンスマンJP』は、実はとても実験的な映画なのだが、最終的によくできたコメディ映画としてきれいに着地する。そこに自分たちは万人に向けた大衆映画を作っているのだという作り手の矜持が感じられる。

 渥美清の『男はつらいよ』シリーズ、西田敏行の『釣りバカ日誌』シリーズ、加山雄三の『若大将』シリーズなど、かつての日本映画には人気俳優が主演を務めるプログラムピクチャーが存在し邦画人気を下支えしていた。長澤まさみの『コンフィデンスマンJP』シリーズはこの『英雄編』で日本映画を代表する新たなプログラムピクチャーとして定着したと言って過言ではないだろう。

 来年は古沢良太が大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合)を手掛けるため、新作映画はしばらく後かもしれないが、できるだけ長く続けてほしい。何が本当で何が嘘だかわからない不安定な時代。せめて映画の中ぐらい気持ちよく騙されたいものである。

■公開情報
『コンフィデンスマンJP 英雄編』
公開中
出演:長澤まさみ、東出昌大、小手伸也、小日向文世、松重豊、瀬戸康史、城田優、生田絵梨花、広末涼子、織田梨沙、関水渚、赤ペン瀧川、石黒賢、梶原善、徳永えり、高嶋政宏、生瀬勝久、真木よう子、角野卓造、江口洋介
監督:田中亮
脚本:古沢良太
制作プロダクション: FILM
製作:フジテレビ、東宝、東宝芸能、FNS27社
配給:東宝
(c)2022「コンフィデンスマンJP」製作委員会
公式サイト:http://confidenceman-movie.com
公式Twitter:https://twitter.com/confidencemanJP
公式Instagram:https://www.instagram.com/confidenceman_jp/

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