『コンフィデンスマンJP 英雄編』古沢良太の巧みな脚本 構えていてもしっかり騙される
田中亮監督の映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』(以下、『英雄編』)が劇場公開中だ。『外事警察』(NHK総合)や『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)などで知られる古沢良太が脚本を担当する本作は、ダー子(長澤まさみ)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)の3人の信用詐欺師(コンフィデンスマン)がチームを組んで、毎回、オサカナ(騙す相手)を釣り上げるコンゲームの物語。
国外展開も視野に入れたプロジェクトとしてスタートした『コンフィデンスマンJP』は2018年に1話完結の連続ドラマがフジテレビ系で放送された後、2019年に劇場版第1作となる『ロマンス編』が、翌2020年には第2作となる『プリンセス編』が公開された。そして今年1月、劇場映画3作目となる『英雄編』が公開。
今回の『英雄編』では、今までチームを組んでいたダー子、ボクちゃん、リチャードの3人が、「負けた人が勝った人の言うことを何でも聞く」ことを条件に、マルタ島で何でもありの騙し合いバトルがスタート。視点を切り替えながら映画は進み、ダー子から見えた物語がボクちゃんの視点からはこう見え、ボクちゃんから見えていた物語は、リチャードからはこう見えていたというリレー形式でみせていく物語となっている。
最初はわからなかった小さな謎が、視点が切り替わることで明らかになると同時に新たな謎が積み重なり、最終的にすべての謎がきれいに解かれるという構造は一見とても複雑なものに思えるが、劇中ですべて丁寧に解説してくれるので、観終わって欲求不満が溜まることはなく、清々しい気持ちで劇場から出られる。
普通のドラマや映画なら「それはルール違反だろ!」と文句を言いたくなるような超展開も『コンフィデンスマンJP』の世界においては平常運転で、逆に今度はどんな奇策でこちらを唖然とさせてくれるのかと期待してしまう。
物語は騙し騙されというサスペンスの連続だが、同時に厄介なのは、観客である我々もまたキレイに騙されてしまうこと。
絶体絶命のピンチで見せるシリアスなやりとりや、ダー子がふと呟く切ない台詞に思わず心が動かされ感動していると、後でそれが演技だったとひっくり返される。さっきまで感動していた観客の立場からすると若干、複雑な気持ちで「あの感動を返せ!」と腹が立つのだが、この裏切りが単純な感動を超えて気持ち良いのだから実に厄介だ。
物語を盛り上げて泣く寸前まで観客を感動させながら、最後の最後で「実は嘘でした~」とわざわざ楽屋裏をバラして「笑い」に変える反転は、古沢良太が得意とする作劇手法だ。映画も3作目となると流石に「もう騙されないぞ」と構えて観ていたのだが、それでも気が付くといつのまにか感動して、しっかり騙されていた自分がいるのだから、脚本の巧みさに舌を巻く。