紗倉まなが明かす、「究極の自分を見てみたい」という願望 『夕方のおともだち』の共感性

紗倉まなが明かす、女王様への憧れ

 2月4日から劇場公開される映画『夕方のおともだち』は、SMを題材にした「癒やしと愛の物語」だ。

 原作は漫画家・山本直樹の短編漫画。監督は『ヴァイブレータ』や『ここは退屈迎えに来て』などの作品で知られる廣木隆一。

 主人公は、寝たきりの母親を介護しながら市の水道局で働き、夜はSMクラブに通うドM男のヨシダヨシオ(村上淳)。SMに集中できなくなったことに焦りを感じるヨシダが、ミホ女王様(菜葉菜)と悪戦苦闘する姿を通して、SMの奥深い世界が描かれていく。

 今回、リアルサウンド映画部では、AV女優、コメンテーター、小説家、コラムニストといった幅広いジャンルで活躍する紗倉まなにインタビュー。

 “えろ屋”を名乗る彼女は『夕方のおともだち』をどのように観たのか? 「女王様への憧れ」を入り口に、SMと“えろ”の世界について語ってもらった。(成馬零一)

「究極の自分を見てみたい」という願望

――紗倉さんは『夕方のおともだち』を、どのようにご覧になりましたか?

紗倉まな(以下、紗倉):山本直樹さんのタッチを廣木監督が映像に起こすと純文学的な感じになるんだなと思いました。歪んだ性癖といった人間味あふれる要素がたくさん散りばめられている映画ですよね。登場人物には時が止まっているような人が多くて、ゆるやかに時が動き出す希望のある物語が面白かったです。

――原作漫画が雑誌掲載されたのが1995年なんですよね。その意味でも時間が止まっているという印象なのかもしれないですね。

紗倉:世界観として好きだったのは、ヨシダの性癖を会社の同僚がからかいながらも受け入れているところですね。性風俗に通っていることは筒抜けだし、からかわれたりもするけど、差別するという感じはなくて、みんなもお店に行ったことがあるみたいな距離感で。狭い街であれだけ凄い性癖を持っているにも関わらず、弾かれてないところに希望があって好きですね。

――SMやセックスの描かれ方はいかがでしたか?

紗倉:「盛り上がらないところ」が良いなと思いました。行為が完結せずに途中でしおれるというのはAVではないシーンですし、逆に言うと映しちゃいけないので……(笑)。そんなにポンポン進むわけじゃないというリアリティがあって、日常のセックスに近い描写だと思います。行為に入る最初と最後の業務的なやりとりも、あまり見ないじゃないですか。「でも、そういうものだよなぁ」と思います。

――登場人物で印象に残った方を教えてください。

紗倉:菜葉菜さんが演じるミホ女王様の生き方がカッコよくて印象的でした。私だけかもしれませんが、女王様って「女性にとって憧れの存在」だと思うんですよね。主導権を握っているように振る舞いながら、相手のことを理解していないと与えることのできない痛みを、塩梅を見て与えることができる女王様は「人の極限を試すことができる神みたいな存在」じゃないですか。相手のことを掌握して君臨できる姿に憧れます。

――女王様とAV女優のお仕事には、重なるところはありますか?

紗倉:女王様は女王様という職業だと思うんですよ。AVだといろんな役を演じて、最終的に作品を完結させるというゴールに向かって演じるのですが、女王様ってゴールがない気がして。一回痛みを与えたらさらなるMの耐性がついて、次に来る時には、もっとそれを超す何かを……と求められるハードルが上がっていく。

――ヨシダも快楽のためなら、死んでも構わないとすら思ってしまうわけで。

紗倉:M気質の方でなくても「究極の自分を見てみたい」という願望はあると思うんですよ。だから死ぬところまで行ってみたいという気持ちも不思議じゃないというか、その感覚はわかるなと思います。

――ヨシダの気持ちは理解できますか?

紗倉:作品を完結させなきゃいけないという気持ちが頭にあるので、撮影中はあそこまで振り切れなかったりしますが「今、別に死んでもいいや」と思う瞬間もあります。「この人になら殺されてもいい」みたいな。それが信頼になるというのはおかしいですけど、たぶんヨシダにとってユキ子女王様はそういう存在だったのかなと。ユキ子女王様になら殺されてもいいけど、ミホ女王様には殺されたくないのかもしれない。厄介なことに「自分を殺す人を選びたい」みたいな気持ちがあるというか。

――ユキ子女王様に対する片思いの物語でもあります。

紗倉:2人は理想と現実みたいな感じですよね。ユキ子女王様はヨシダに対して絶対的な存在だけど、ミホ女王様は奴隷のヨシダに対して仕事として割り切ることができなくて振り回されている。途中で男性の側が萎えて、縄を解いて降ろす女王様ってあんまり見ないですよね。「支配する側なのに支配しきれない」って一番肩透かし感があるけど、それは現実にはよくある普通のことで親近感を持てますよね。だから、ミホ女王様の気にしないでヨシダとフェアでいるスタンスはカッコいいと思いました。どちらの女王様もカッコよくて、2人の女王様が見られることがこの映画の魅力なのかなと思います。

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