佐藤二朗が身体から詩を生み出す サスペンスのドンデン返しが続く『さがす』の濃い2時間

『さがす』で身体から詩を生み出す佐藤二朗

 自主映画『岬の兄妹』(2018年)でただならぬ才能を示した片山慎三監督の商業デビュー作とあって期待しないわけにはいかない。そう思って観たら、これは凄いものを撮ったな! と興奮が収まらなかった。

 大阪の通天閣近辺に暮らす父・原田智(佐藤二朗)と娘・楓(伊東蒼)。どうやら目下、働いていないらしい智は指名手配中の連続殺人犯・名無しを目撃したと楓に語る。彼を捕まえたら300万円もらえると期待する父に娘は呆れるしかない。その翌朝、父がこつ然と消えた。楓は必死に父を探し、たどり着いた先には“原田智”と名乗る若い男(清水尋也)がいた。単なる同姓同名なのか、それとも……。しかもその男は名無しに似ていてーー。

 「大阪に住む父が指名手配犯を見かけた、という実体験から生まれたオリジナル作品です」と監督が語る『さがす』は身近に起こり得るかもしれないちょっとしたスリリングな体験からはじまって、ドンデン返しに次ぐドンデン返しのサスペンス色の強い物語だ。

 社会の片隅に生きる父子家庭を描く社会派ものかと思えば、連続殺人犯が絡んできて、娘が同級生・花山豊(石井正太朗)と共に消えた父を探していく流れはジュブナイルミステリーのムードも。ほどなくしてがらりと様子が変わり、いったいこの映画はいったいどこに向かっているのか? 観ているこちらまで楓と同じような霧に包まれたような気持ちになる。楓と共に何かを「さがす」過程でカードが次々をめくられるように意外な事実が明かされていく。物語の行き着く先はーー要素がてんこもりだがひとつも無駄のない密度の濃い2時間だ。

 物語が進むにつれて、智が姿を消す前のあの表情やこの表情、すべてがああ、そういう意味だったのかとわかっていく。そしてそこには智と楓の切っても切れない家族の繋がりの糸がぴーーんっと強靭に張っている。智と楓の関係がすごくいい。仲が悪そうーーというか思春期の少女特有の父への嫌悪を見せたかと思うと家族だからこその親密さがある。智は智で頼りないところはあるものの愛情深く、それゆえに予想外の方向に進んでいく。

 人間の心情がぱきっと表と裏に二分されず、滲むように重なり合うようなところは俳優の演技の見せどころであろう。『さがす』の登場人物はほぼ全員、水彩画のように色が混じり合って濃淡がある。原田家は路地裏の築年数が古そうな家だがばらばらのカーテンの柄が素朴ながら繊細で光を美しく透かす。そう、『さがす』の世界はこの家のカーテンのようだ。

 光の差し具合で様々な表情が見える最たる人物は智である。はじまって早々に失踪するこの男、娘のケータイに残したメッセージの内容といい、いわゆるダメな父親なのか……と思うと次々意外な面が現れる。

 智を演じる俳優は佐藤二朗。彼は2022年度の主演男優賞を総なめするんじゃないかと思えるほどの凄みをもって演じている。凄みといっても、いわゆる“怪優”や“怪演”さらには“顔芸”と称されるギミックで度肝を抜くようなことではない。内側がじわじわと沸いてくる見えない凄みがあった。彼の抱える様々な想いが内側で渦を巻いた末に表出する数々の表情は刻々と変わる空模様のようで、ときに曇り、ときに荒れ、ときに光差す。ある行動を起こすときの逡巡や錯乱。様々な感情が彼の肉体を揺さぶっていく。タイトルの『さがす』には多義性があるが、楓の智「さがし」の物語でもあるわけで、そうすると智が不在の時間が多いのか? という佐藤二朗ファンの方はご安心を。巧みな構成で智の出番も多い。

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