“偽ること”を考えさせられる 『ラブ・ハード』はマッチングアプリ世代に響く名作だ

デートアプリ世代を導く『ラブ・ハード』

 ボルダリングが趣味の彼に無理に合わせて、高所恐怖症なのに一緒にやってみたり、全然アウトドア好きじゃないのに割とハードコアなアクティビティをやってみたり。話だって噛み合わない。ダグはなんというか、いい感じだなと思って家に行った時、自分は小説やエッセイが好きなのに、彼の本棚が大量の自己啓発本(テレビとかで話題になっているうさんくさいCEOの自伝本含む)で埋まっていた時に感じる残念さのようなものを彷彿とさせる。ただ、ここで重要なのは“ダグに合う人”がいる前提で、“自分がただダグに合わない”だけだということだ。これは、ジョシュにも同じことが言える。

 それなのに、わざわざ“見た目がタイプだから”自分を偽り続けてでも、彼の彼女になろうとする主人公。終いにはベジタリアンなのに肉好きの彼に合わせてステーキハウスで肉を食べるハメに。果たして、そこまで自分を偽ってでも得たい“愛”とは何なのだろう。そして先述の「偽ってでも相手に好かれたい」と、ジョシュが主人公にしたことと同じことを、ようは主人公もダグにしているわけだ。そこで、彼女がジョシュに向けた「話が違うじゃない」と“裏切られた気持ち”が、今度はダグ側から特大ブーメランになって戻ってくる。なんとも、なんとも業が深い。

 本作の素晴らしいところは、そんなふうにマッチングアプリにはじまるルッキズムに基づいた選別という、本当は否定したいけどしきれない都合の悪い真実を暴きながら、「好かれたいがためについた嘘」が結果的に誰かを傷つけること、そして最終的に「相手に好かれたいがために偽る自分」を脱し、「ありのままの自分」で愛を探す勇気を観る者に分けてくれるところだ。もちろん、細かいセリフや描写などのディテールで登場人物の感情にも寄り添うことができることも魅力のひとつ。なにより、“万年スワイパー”にとっては苦い良薬的映画とも言えるだろう。ちょうどクリスマスホリデーが舞台となっている作品でもあるので、時期的にも雰囲気ぴったり。主人公が最終的にどんな選択を取って行くか、ぜひその目で見守ってほしい。

■配信情報
Netflix映画『ラブ・ハード』
Netflixにて独占配信中
監督:エルナン・ヒメネス
脚本:ダニー・マッキー、レベッカ・ユーイング
出演:ニーナ・ドブレフ、ジミー・O・ヤン、ダレン・バーネット、マッティ・フィノキオ、ジェームズ・サイトウ

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる