“『北斗の拳』理論”から紐解く『地獄が呼んでいる』 サービス精神もヒットの一因?

『地獄が呼んでいる』の中の『北斗の拳』理論

 私が勝手に『北斗の拳』理論と呼んでいるものがある。これは1980年代を代表するジャンプマンガ『北斗の拳』から読み取れる作劇方法だ。簡単に言うと、1話の中で1回は、たとえ本筋と関係なくても、モヒカンのすごい死に様を挿入することである。『北斗の拳』が大ヒット作になった理由は、この作劇方法にあるとすら思う。もちろん主人公ケンシロウが数々の強敵(とも)たちと繰り広げる死闘、そして漢(おとこ)たちが背負う哀しみのドラマが『北斗の拳』の柱であることは間違いない。しかし、1話で1回は誰かがすごい死に方をする点も『北斗の拳』の大切な支柱である。「我が人生に一片の悔いなし!」などの名言と並んで、ジャッカルの部下の元プロボクサーの「あべし」という断末魔が今も語り継がれていることが何よりの証だろう。そして現在世界中で大ヒットしているNetflixドラマ『地獄が呼んでいる』(2021年)も、この『北斗の拳』理論に基づいて作られている。

 ある日、ソウルの街中で男性がいきなり謎のムキムキの怪物3体に取り囲まれて、ボコボコにされた挙句、不思議な光パワーで焼き殺されてしまった。あまりにも不可解な現象だったが、新興宗教団体・新真理会は「ムキムキ3体は神の使者であり、ボコボコにされた人は罪人で、地獄に送られたのだ」と主張する。突飛すぎる意見だったが、今度は全国放送テレビでムキムキ3体が人をボコボコにするさまが生中継されてしまった。テレビの影響力というのは恐ろしいもので、この一件によって新真理会は急速に影響力を増していく。新真理会の教えに没頭する若者たちのコミュニティ「矢じり」は法律を無視して暴れ始め、徐々に韓国社会全体が恐怖によって狂っていくのだった。そんな中、かつて妻を殺した犯人を法で裁けなかった過去を持つ刑事、新真理会と対決を続ける弁護士、子供が生まれたばかりの夫婦など、様々な立場の人々の人生が描かれる。果たして彼ら彼女らが辿る運命とは?

 本作は極めてシリアスで重いトーンの作品だ。『デビルマン』のような恐怖によって社会が急速に変容していくさまや、死兆星を見たレイの如く「〇日後に死ぬ」という極限状況下に置かれた人々のドラマは間違いなく本作の主軸であるし、偏った情報に踊らされる社会や、ネットリンチへの強烈な皮肉、これらの要素が本作の屋台骨であることは間違いない。

 しかし一方で、どのエピソードでも何かしらの凄い死に方やショッキングなシーンが用意されている点も注目すべきだ。ムキムキ3体は毎回毎回、律儀に人をボコボコにするし、ムキムキ3体が暴れない回では、人間の手によってショッキングな殺害シーンが入る(人間側のバラエティに富んだ暴力シーンにムキムキ3体側も負けていらないと思ったのか、後半ではムキムキ3体が完全にサメ映画の演出で人を殺す)。1話に1回は絶対に観客にショックを与えてやるという、作り手のサービス精神が垣間見えるようだ。そしてこれはまさしく『北斗の拳』理論である。そう思うと、色々と『北斗の拳』っぽく見えてくる。好き放題に暴れまわる「矢じり」の若者たちは現在のモヒカンであろう(そして話を動かす“暴力狂言回し”として見れば、ムキムキ3体の立ち位置はケンシロウに近い)。

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