伊藤沙莉、ヒロイン起用が止まらない理由は? “女ともだち”的な気質に注目

伊藤沙莉、ヒロイン起用が止まらない理由は?

 そんな伊藤沙莉は、近ごろ恋愛ものの作品で「ヒロイン」として登場する機会が増えている。2020年と2021年に放送されたドラマ『いいね!光源氏くん』(NHK)、現在公開中のNetflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』、2022年公開予定の映画『ちょっと思い出しただけ』。

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(c)2021 C&I entertainment

 これまで「ヒロインの友達」役が多かった彼女としては、大きな変化のように思われる。しかし、やはり彼女が演じる役柄にはどこか一貫性を感じてしまうのだ。『いいね!光源氏くん』では、『源氏物語』の世界から現代にタイムスリップしてきた光源氏と同居する物語が展開され、突飛な設定のなかでのほのかなロマンスが描かれていた。また、今後公開される2本のヒロイン映画はどちらも主人公の“元カノ”役である。

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(c)2021 C&I entertainment

 「友達以上、恋人未満」ーー。そうした補助線を引くと、近ごろヒロイン起用が続く理由も頷ける。要するに、「女ともだち」的な“気質”を携えてその周縁を演じ分けてきた伊藤沙莉が、そのバリエーションとして恋愛もののヒロインや元カノを体現しているに過ぎないのだ。どれも全く違うキャラクターでありながら、彼女が演じるにしかるべき揺るぎないものを感じさせもする。彼女のインタビューをいくつか読むと、「伊藤沙莉が演じる必然性があるもの」を彼女がとても意識的に選んでいるのがわかる。だから今のところ、キラキラ恋愛映画のヒロインを演じることはない。

 「女ともだち」的な“気質”がどこから生まれているのか気になる人には、今年6月に発売されたフォトエッセイ本『【さり】ではなく【さいり】です。』(KADOKAWA)を読んでみてほしい。芸能人のこうした書籍には珍しいと思うのだけれど、伊藤沙莉自身の学生時代からの友達との対談が掲載されていたり(=リアル「女ともだち」としての彼女が浮き彫りになる)、兄であるオズワルド・伊藤俊介をはじめとした家族への思いが綴られていたりして、読むと自分すら友達になれたかのような温かさがあった。

 そこにはまた、「第二章のスタート」という言葉が記されている。かつては声にコンプレックスがあったり、思うように演技ができなかったりする時期もあったという。その時期を乗り越えて、常に悩みながらも稀代のバイプレイヤーとして新しい役を差し出し続ける伊藤沙莉の、揺るぎない信念にこれからも魅了され続けるのだろう。

■公開・配信情報
Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』
シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかにて公開中
Netflixにて全世界配信中
出演:森山未來、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE、篠原篤、平岳大、片山萌美、高嶋政伸、ラサール石井、大島優子、萩原聖人
原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)
監督:森義仁
脚本:高田亮
音楽:tomisiro
制作担当:栗林直人
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:山本晃久
アソシエイト・プロデューサー:近藤多聞
ライン・プロデューサー:保中良介
配給:ビターズ・エンド
2021/124分/カラー
(c)2021 C&I entertainment
公式サイト:bokutachiha.jp

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