『最愛』梨央と大輝に灯った赤信号 真犯人が名乗り出るも胸をざわつかせるのはなぜ?

『最愛』犯人発覚後もなぜ胸をざわつかせる?

 きっとこのドラマは、起きてしまった事件の概要そのものよりも、そこから広がり続ける波紋のゆらぎこそが描かれる真髄なのだろう。事件が起きるのは、長い人生におけるほんの一瞬。だが、その後に続く一生が狂わせるのが、本当の罪深い部分なのだから。

 何も起きる前の梨央は大輝(松下洸平)に対して、大勢の前で叫んでしまいたいほどの想いが溢れていた。しかし、あの康介の事件をきっかけに、抱き寄せられたときにその体を握り返すこともできなくなってしまう。

 自分を守ろうとして深く傷ついた優をこれ以上危険にさらさないため、そしてその罪を隠蔽しようとした父・達雄(光石研)の思いを無駄にしないため。すべてを自分の中しまい込むことが今できる最善の行動なのだと思い込ませながら。

 そして15年後、昭の事件を機に再会を果たした梨央と大輝は、再び心を通わせつつあるものの、やはり何もなかったころのようには戻れない。赤信号が時を止める時間だけ、梨央は大輝の胸で涙を流す。それは弱ってしまった梨央の心が見せた、つかの間の本能。

 しかし、今度は大輝が梨央を抱きしめ返すことができない。大輝にとって今できることは刑事として梨央の無実を証明することだと思えばこそ。最愛の存在のために何をすべきかを冷静に自覚するほどに、自分の本能的な行動に赤信号が灯る、という彼らの心情を示唆するかのようなシーンだった。

 梨央と大輝、そして梨央と優。いずれもこんな悲しい再会にならなければならない運命を呪いたくなってしまう。しかし、これまでも新薬開発という大きな夢を糧に強く生きてきた梨央のこと、ここでくじけるつもりはなさそうだ。予告映像を見ると、優を遠くに逃がそうとする大胆な動きが見られる。

 一方で、梨央を貶める記事をチラつかせていた記者・橘しおり(田中みな実)が拘束されている姿も。また新たな事件が発生するということだろうか。その凶行によってさらなる波紋が広がり、さざなみのように我々視聴者の胸をざわつかせていく。まだ折返しにも立っていないこのドラマの結末の読めなさが嬉しくも苦しい。実にニクいドラマだ。

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子(特別出演)、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子
編成:中西真央、東仲恵吾
主題歌:宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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