『おかえりモネ』の世界は私たちの日常に降り注ぐ 心の痛みに向き合った唯一無二の作品に

心の痛みに誠実に向き合った『おかえりモネ』

 『おかえりモネ』最終週は、まさに救いの週だった。菅波と百音の関係が、「わからない痛みをわかりたいと思う」関係なら、亮と未知(蒔田彩珠)の関係は、「痛みを共有する」関係だ。「お前になにがわかる、そう思ってきた。俺以外の全員に」と感じてきた亮が、「他の奴には絶対わかんない。でも俺なら、みーちゃんが抱えてるもん、わかんなくても想像できる」と未知に対して言った時、最も救われたのは未知ではなくて亮だったのではないか。その言葉によって、それまで「大丈夫」という言葉を武器に、たった1人で世界と対峙していた彼は、彼一人の世界に未知を引き入れることができたのだから。そしてそんな未知をさらに大きな包容力で抱きしめたのが、「これからは私がここにいる」と宣言し、未知の「帰る場所」となった姉・百音だった。

 亮と話をし、百音の家族への挨拶に赴いた菅波は、何度も「共有していない時間の多さ」への戸惑いを語る。それは、百音がずっと感じていた「あの時、大切な人たちと同じ場所・時間を共有することができなかった」という負い目と共通するものがある。本作は「相手の痛みを想像したい」と願う人々の物語であると同時に、「大切な人たちと同じ時間・場所を共有したい/したかった」と思う人々の物語でもあった。

 だが、百音と未知は、愛する人と思いが通じ合った後、安心したように「ニコイチ」の相手と一時離れる道を選ぶ。なぜなら、彼ら彼女たちは「互いの今やりたいことを尊重し合い、いずれ一つの目標に向かっていく」しっかりとした信頼関係が築けているから、もうどこに行っても大丈夫なのだ。「私たち、距離も時間も関係ないですから」と言った最終回の百音と菅波は、コロナ禍をも乗り越えていた。

 全ての話を「水」が繋ぎ、やがて島の海へと辿り着き、その海を亮の船が走った。それぞれの再生が描かれると同時に、耕治(内野聖陽)が「そんなに簡単じゃない」と自分自身を諫めるのもまたよかった。

 「耕し治める」耕治は、彼なりの方法で龍己(藤竜也)の海の仕事を継承すると決意し、その娘である百音は、海と共に生きながら、まさに「耕し治める」側の人、登米のサヤカ(夏木マリ)のような存在になると決意する。祖母・雅代(竹下景子)の魂は、牡蠣となり、やがて耕治が作った笛から芽吹いた葉となり、登米から東京、東京から気仙沼へと移動し、龍己の元に戻り、やがて登米の山に植樹されるという。

 人も自然も、生者も死者も、緩やかに変化しながら、全ては繋がっている。「私はここにいる」。それは、百音だけでなく、サヤカや雅代、そして、姿を現わすことがなかった宇田川の声でもある。例えその場所にいなくても、「土地というより人に根付く」という考え方において、彼らは、そこここにいる。大切な誰かの心の中に根付く。だから変わったっていい。どこに行ってもいい。好きなように生きたらいい。本質は変わらないのだから。最終週が描いた『おかえりモネ』の壮大な世界観は、私たちの日常に降り注ぐ。雨が降るたびに思い出そう。心に根付いた『おかえりモネ』という物語を。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる