江口のりこ、『SUPER RICH』主演に至るまで インパクト&庶民性が勢いの鍵に?
10月14日に放送された『SUPER RICH』(フジテレビ系)の第1話。プラチナ・ウーマン・オブ・ザ・イヤーなる賞を受賞した主人公の氷河衛は壇上でこうのたまう。「金なんてなんぼあってもいいですからね!」。元ネタであろうミルクボーイ以外にこの言葉をユーモアと皮肉の良いバランスを保ちながら言葉にできるのは、まさに同役を演じている江口のりこを置いて他にはいないだろう。
キャリア20年、あらゆるドラマや映画にしれっと登場する名バイプレイヤーとして活躍してきた江口。改めて所属事務所のホームページを覗いてみれば、その出演作の多さにただただ驚かされる。毎年のように出演映画が公開され、中には10本を超える年もある。そんな彼女がプライム帯の連続ドラマで主演を張り、伸び盛りの赤楚衛二や町田啓太、さらには松嶋菜々子までもが彼女を支える助演に回るというのは、つい数年前まで誰が予測できただろうか。いわゆる“遅咲き”ともどこか違う、地道に地道を重ねてたどり着いたブレイク。ことさら“勢い”というものの重要さを物語っているかのようだ。
興味深いことに2000年代に江口が出演した映画作品の一覧を観てみると、当時日本映画を好んで観ていた人々のほとんどが観ているであろう有名作品ばかりが並ぶ。『ジョゼと虎と魚たち』『スウィングガールズ』『カナリア』『パッチギ!』『嫌われ松子の一生』に、『百万円と苦虫女』などなど。いま改めて観てみると、もう一瞬で江口のりこだと気が付くことができるわけだが、程よく作品の背景に染まっていているあたりは、いかにもバイプレイヤーらしい。個人的には『スウィングガールズ』のやる気のない楽器屋店員の役が印象深いが、おそらくもう何度も観ている作品だから記憶に定着しているだけのようにも思えてしまう。
そんな江口の存在が一般的に注目されるようになったのはNHKの連続テレビ小説『マッサン』からであろう。玉山鉄二演じる主人公の亀山政春が就職する大阪の住吉酒造で働く安藤好子役でレギュラー出演を果たし、放送終了後には主人公に抜擢されたスピンオフドラマが作られるほどの人気を集める。それを皮切りにインパクトある役回りが急激に増え、『海月姫』(フジテレビ系)ではインド人に、『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)では中華料理屋の中国人店員に溶けこむなどまさかのボーダーレス化。そして『これは経費で落ちません!』(NHK)での“タイガー”こと麻吹美華役のように、登場こそインパクト重視でありながらも実は人間じみた部分を持ち合わせたキャラクターだったとわかり、庶民的な魅力を発する技を会得するのである。
そうした流れで昨年放送された『半沢直樹』(TBS系)で最大のブレイクを果たす。必然的にテレビドラマでの役柄は急激に大きくなり、『半沢直樹』と同じ座組みで作られた『ドラゴン桜』(TBS系)では舞台となる学園の理事長役を演じる。同作のシーズン1では新垣結衣がやさぐれて加わるレディースの総長だったのが、よもやの大出世である。さらには事故物件を紹介するオカルティックな不動産屋を演じた映画『事故物件 恐い間取り』では日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。一度波に乗ったら止まらないその威力は並大抵のものではない。