『古見さん』は“かつての高校生”こそ胸に響く 水橋文美江が描く心の機微

“かつての高校生”こそ響く『古見さん』

 本作は、第4話、片居の転校話を機に、大きく2章に分けられる。第1章で描かれていたのは、「友情とは、誰かと同じ景色を見て、同じ思いを共有することである」ということ。

 第1話は、只野を相手に、人と話すことが苦手な古見(池田エライザ)が黒板に言葉にできない思いを綴る場面に、母親直伝のマンバギャルメイクで高校デビューしようとしたものの逆効果となって「こんなはずじゃなかった」と思いながら一人弁当を食べる万場木(吉川愛)の思いが重ねられる、謂わば、不安に満ちた孤独な魂の邂逅とも言うべき回だった。

 その時、古見と万場木はそれぞれに言った(書いた)。空を舞う桜の花びらを受け止めながら、「桜が綺麗だねって言いたかった」と。つまり「誰かと同じ景色を見て、同じ思いを共有したかった」という2人の願いは、第3話で叶うことになる。長名なじみ(ゆうたろう)の「友だちの定義」である「同じ景色を見ること」は、まさにそれだったからだ。

 だから、なじみのお気に入りの場所に連れていかれて「同じ景色を共有」した彼ら彼女たちは喜ぶ。万場木は「また世界が広がった」と微笑むし、古見は思わず嬉しくて「ぴょん」と飛び跳ねてしまう。それから第4話で彼らは海に行く。そこで片居を含めた(今度はなじみがいないが)「同じ景色と食べ物の共有」が嬉々として行われ、転校する片居に対して只野と万場木が言う「今目の前に広がっている海は、世界中どこでも繋がっている」から「心は繋がってる」のだという台詞を通して、彼らの共有していた小さな「世界」が、果てしなく遠くまで広がり、彼らは新たなステージに進むことになる。

 第4話後半以降、つまり第2章において、古見はより活動的になり「応援したい友だち」ができたり、只野に対して恋の「キュン、フワッ、ドキドキドキドキ」の感情を初めて知ったりする。それによって理想的な友情を築きつつある万場木と古見の関係がどう変化し、また、古見を心配し過ぎる只野と古見の関係がどう変化するのか。そこに成瀬詩守斗(城田優)という、これまた愛すべき、それでいて妙に本質を突く台詞で只野の「優しさ」を問う新たなキャラクターの登場で、ますます興味深い物語が展開されそうだ。「友だちの先」はどうにも、一筋縄ではいきそうにない。

■放送情報
『古見さんは、コミュ症です。』
NHK総合にて、毎週月曜22:45〜23:15放送(全8回)
出演:増田貴久、池田エライザ、吉川愛、ゆうたろう、溝端淳平、筧美和子、大西礼芳、城田優ほか
語り:高橋克実
原作:オダトモヒト
脚本:水橋文美江
音楽:瀬川英史
主題歌:aiko
制作統括:樋口俊一(NHK)、高城朝子(テレビマンユニオン)
プロデューサー:大沼宏行(テレビマンユニオン)
演出 :岡下慶仁(テレビマンユニオン)、石井永二(テレビマンユニオン)
総合演出:瑠東東一郎(メディアプルポ)
写真提供=NHK

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