泉澤祐希は“若きベテラン”? 『マスカレード・ナイト』で果たす重要な役割
2019年公開の大ヒット映画『マスカレード・ホテル』で好演を刻んだ泉澤祐希が、続編である『マスカレード・ナイト』にも続投。多くの登場人物が入り乱れる物語の中心に立ち、主演の木村拓哉を支える役どころを担っている。そこで見られるのは、やはり“若きベテラン”とでも呼びたくなる泉澤だからこそ成し遂げられた好演である。
とあるホテルで起こる凶悪な犯罪を防ぐべく、刑事とホテルの従業員がときにぶつかり合い、ときに共闘する本作。主演の木村を筆頭に、長澤まさみ、小日向文世、石黒賢、沢村一樹、麻生久美子ら手練れの俳優陣が一堂に会している作品だ。泉澤が演じているのは前作と同じく、捜査一課の若手刑事であり、「ホテル・コルテシア東京」でベルボーイとして潜入捜査を行う関根という人物である。彼は木村が演じる新田浩介の部下にあたるため、つねに物語の中心に立つかたちとなっている。犯人逮捕を第一に考える刑事の新田と、「お客様第一」という理念を掲げるホテルのコンシェルジュ・山岸尚美(長澤まさみ)の利害関係が一致し、彼ら二人が“でこぼこバディ”の関係を築き上げていくのが本作の見どころの一つ。しかし、新田に追従する関根もまた、先輩刑事とのバディ的関係を築かねばならない存在だといえるだろう。
ベテラン俳優が多く集まった本作おいて泉澤は、“若手枠”の一人である。ホテル内で慌ただしく立ち回る“刑事組”の中では最年少。ここで彼が負う責務は、主演俳優の身近なところで作品を盛り上げ、物語をゴールへと導いていくのをアシストすることだ。とはいえ関根は、破天荒な新田の振る舞いを後押しするような人物ではない。新田の存在や、ホテル内で課される業務に翻弄されながら、「犯人を探す」という刑事としての職務を全うしようと努めている。劇中で起こるエピソードの一つひとつに対する彼のリアクションが、新田のキャラクター性をより強調し、ホテル内がどんな場であるのかを明らかにしているように思う。つまり、泉澤が関根という役を通して示す言動が、物語をクリアに、そして臨場感をもって、観客に伝える役割を果たしていると思うのである。しかも周りには、アクの強いキャラクターたちばかり。クセモノたちの中で関根は一見して平凡な人物のように思えるが、こんな役どころこそ難しそうだ。ここで特定のキャラクターのトーンに泉澤まで流されてしまっては、やはり作品の軸がブレる。彼が終始フラットでいるからこそ、全体のバランスが保たれているのではないだろうか。さすがは幼少期から場数を踏んできた“若きベテラン”だ。
ところで、本作『マスカレード・ナイト』の原作者といえば、東野圭吾である。泉澤と東野の関連で思い出すのが、同じく東野原作によるテレビドラマ『白夜行』(2006年/TBS系)だ。同作で彼は、山田孝之演じる主人公の少年期を演じた。深い業を背負う主人公の人生の、そのはじまりとなるシーンを、泉澤が幼いながらも鬼気迫る演技でやってのけていたことは大きなインパクトがあり、いまだ鮮明に記憶に残っている。15年も前の話だが、あの頃からそういった重要なポジションに配されていた俳優であり、いまさらに彼の重要度が上がっているところなのだろう。