『モンタナの目撃者』の徹底したハードボイルドの美学 イメージとかけ離れた硬派な作品に
逆に悪役であるはずのエイダン・ギレンとニコラス・ホルトが演じる暗殺者コンビの方は、世知辛いことこのうえない。いわゆる「クールな男は爆発しても振り返られない」を決めるものの、「そもそも2人でやる仕事じゃないだろ。肝心なところで予算をケチりやがって」と愚痴をこぼし、上長から進捗で詰められる。ピカピカの車を乗り回し、ゴツい銃を持っている凄腕の暗殺者にもかかわらず、2人からは会社員的な哀愁と不自由さが漂う。思えばシュリダンが脚本を務めた『ボーダーライン』(2015年)、『ボーダーライン:ソルジェーズ・デイ』(2018年)は麻薬戦争を題材にした作品だったが、どちらも組織の無茶に振り回される者たちの会社員的な苦労を描いた物語だった。『ボーダーライン』シリーズの主要な2人は己の意志で組織を離れた。しかし本作の2人は組織に従うことしか考えず、意志と道徳、つまりは「優しさ」を捨てたタフガイだ。そのような人間は、シェリダンの世界では生きる資格を持たない。無情なほど美学は徹底しており、かえってそこにドラマを読み取る観客もいるだろう。悪は、より大きな悪に使い潰される存在でしかないのだ。
山火事! 暗殺者! アンジェリーナ・ジョリー! この3フレーズからは想像できないほど、本作は地に足のついた、徹底して硬派な作品だ。派手さはないが、こういったハードな世界に浸りたい人間にとっては、たまらないものがあるだろう。ちょうど今年日本公開された『21ブリッジ』(2019年)にも似ている。愛すべき小品として、語り継いでいきたい1本だ。
■公開情報
『モンタナの目撃者』
全国公開中
監督:テイラー・シェリダン
脚本:テイラー・シェリダン、チャールズ・リービット
出演:アンジェリーナ・ジョリー、ニコラス・ホルト、フィン・リトル、エイダン・ギレン、メディナ・センゴア、ジョン・バーンサル
配給:ワーナー・ブラザース映画
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