『モンタナの目撃者』の徹底したハードボイルドの美学 イメージとかけ離れた硬派な作品に

『モンタナの目撃者』のハードボイルドの美学

 「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」とはハードボイルドを象徴する台詞だが、この美学をハリウッド最前線で描いているのがテイラー・シェリダンだろう。彼が製作・脚本・監督を務めた『モンタナの目撃者』(2021年)は、まさにハードボイルドそのもの。硬派なことこのうえない、激渋アクションサスペンスだ。

 森林消防隊員のハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)は、ある山火事で部下と民間人に犠牲を出したことを悔やみ、自暴自棄に陥っていた。気のいい仲間の手助けを受けていたが、それでも心の傷は癒え難く、気分を変えるために、たった一人で見張り台に立つ任務に就く。一方そのころ、都会の街ではとんでもない秘密を知った父子がいた。秘密を知られては困るヤツらは、父子のもとへ2人の暗殺者を送り込む。追跡劇の末に父は殺害され、幼い子供、コナー(フィン・リトル)は森の中へ逃げ込んだ。暗殺者たちは森に火を放ち、コナーを殺すべく森へ入る。しかし、その森はハンナが見守る森だった。偶然にも出会ったコナーとハンナは、迫りくる山火事と暗殺者に立ち向かうのだが……。

 本作の主演はアンジーことアンジェリーナ・ジョリーだ。現在30歳以上の人にとっては『トゥームレイダー』(2001年)や『Mr.&Mrs.スミス』(2005年)などのセクシーでタフな役柄のイメージが強いが、本作での彼女は、こうした作品のようなスーパーヒーローではない。もちろん仕事が仕事なのではタフではあるが、過去の悲劇に傷つき、自分を責めて苦しみ続けている普通の人間だ。ついでに言うと、森林消防隊員以上の特別なスキル(たとえば射撃や格闘の技術など)も持っていない。「アンジーのスーパースター映画だ!」と思って観に行くと、肩透かしを食らうだろう。しかし、本作は冒頭にあげたハードボイルドの美学「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」が徹底している。すべてがこの美学に従って進行し、その枠の中から逸れることは決してない。テイラー・シェリダンの映画だと思って観に行けば、極上の時間を過ごせるはずだ。何せハードボイルドなポイントがありすぎる。細かいポイントを挙げだすとキリがないが(猟銃vs最新の銃という対戦カードを組むとか)、一番のポイントは、やはり本作の登場人物たちが辿る物語だろう。

 本作の主演はもちろんアンジーだ。そして、あくまでハンナとコナーが暗殺者からどう逃げるかがメインプロットであるが、実際のところ、主役は彼女たちではない。この映画は群像劇だ。アンジー演じるハンナの元カレの保安官であるイーサン(ジョン・バーンサル)と、その身重の妻であるアリソン(メディナ・センゴア)は、ハンナとコナーに勝るとも劣らないドラマで魅せてくれる。この2人は成り行きで暗殺者に狙われるのだが、イーサンは正義の心を、アリソンは思い切りのよい暴力で、これに対抗。特にアリソンの活躍は、途中から現代に蘇ったカウボーイと化して、狩猟用のライフルで暗殺者と死闘を繰り広げる。その姿は痛快極まりないし、この2人が辿る運命は、ある意味でハンナとコナー以上にドラマティックだ。



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