松坂桃李が想像させる“空白の3年間” 俳優としての凄みが凝縮された『孤狼の血 LEVEL2』
8月20日から公開となった 『孤狼の血 LEVEL2』。主演を務めるのは松坂桃李。松坂は、広島の警察官で、裏社会の治安を守るためには、手荒なことも厭わない日岡を演じている。
松坂は今年に入ってからだけでも、ドラマは『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)、『あのときキスしておけば』(テレビ朝日系)の2作品に主演。また、映画は『あの頃。』『いのちの停車場』そして『孤狼の血 LEVEL2』と、すでに3本に出演していて、「役のふり幅が広い」という一言では言い表せないほどである。
吉永小百合が主演の『いのちの停車場』では、吉永演じる医師を追って金沢までやってきた医大卒業生という役。映画のビジュアルを見てもわかるが、在宅医療に向き合う誠実な役、しかも泣き虫の役を演じている。
『あのときキスしておけば』は、スーパーで働く青果担当の青年を演じたが、大ファンだった漫画の作者の巴(麻生久美子)と出会い、彼女の家でなにかと雑用を引き受けているうちに、好意を寄せられる。しかし、2人で沖縄旅行にいった飛行機の事故で、巴は死亡。しかし、謎の中年男性(井浦新)が巴を名乗り出し……。
松坂はわがままで自由奔放な巴に振り回され、巴の姿が変わってからも戸惑いながらも、決して無下にはできない優しい人で、もっと言えば人に巻き込まれやすい性格で、そこに野心や利己的なところは1ミリも見えないキャラクターだった。
映画『あの頃。』で演じたのは、冴えない日々を送っていたが、友人から松浦亜弥のDVDを渡され、夢中になり、アイドルオタクの道を進む劔という役だった。映画の中で、ライブ会場にいる松坂の姿を見ると、あの時代にハロプロに夢中になっていた誰かのように本当に見えてくる。
この映画には、仲野太賀が演じるコズミンという強烈なキャラクターがいるため、松坂演じる劔は、一歩引いたところから物語を支えるような役割だが、その強いキャラが隣にいても、食われることなく存在していた。
今年の松坂の作品を振り返ってみると、やはり人に巻き込まれたり、受け身である役の方が多い。『今ここにある危機とぼくの好感度について』もまた、松坂演じる神崎真は、巻き込まれ方の主人公だ。
テレビ局のアナウンサーであったが、自分には向いてないと、大学時代の恩師からの誘いで名門・帝都大学の広報担当になる。前職から、好感度を気にするあまり、自分の思っていることをひとつも話せない神崎は、広報を天職かと思っていたが、次々とトラブルに見舞われ、翻弄され、そんな中で、いつしか自分の考えというものが、ほのかにうまれてくる。
その場の空気を乱さないことばかりに気を遣う青年像は、コミカルで誇張されたキャラクターなのに、神崎が今の時代の空気を風刺しているようにも見える。事なかれ主義だが、どこかにはまだ正義感が残っているのではないかと思わせるのも、松坂桃李だからだろう。もしここに、冷たさやクレバーさ、利己的な感覚がまぎれこんでいたら、神崎を見る目も、ドラマの空気も変わっていたかもしれない。
ここまでは、まきこまれ型で、比較的、善良なキャラクターの説明ばかりであったが、これとはまったく違うのが『孤狼の血』シリーズの日岡秀一である。