『鋼の錬金術師』生誕20周年で海外からも反響 世界的ヒットの理由を紐解く
『鋼の錬金術師』が2021年7月12日に生誕20周年を迎えた。月刊『少年ガンガン』にて連載を開始し、テレビアニメが2003年から2004年と、2009年から2010年に2作品が制作・放送され、2017年には山田涼介(Hey! Say! JUMP)主演で実写映画化までされている。
先日には、20周年を記念した特別番組もYouTubeで配信され、東京・大阪で開催予定となる『鋼の錬金術師展 RETURNS』、作者・荒川弘の最新作、新作スマートフォンゲームの制作など、嬉しいニュースも発表された。
連載終了後からすでに10年近く経過してもなお、多くのファンを生み出していると言っても過言ではなく、特にそれは海外人気にも見られる。英訳である「Fullmetal Alchemist」で検索をすれば、海外ファンからのツイートが数多く見つかる。
本作品の魅力とはなんだろうか。複雑に絡み合った今作の面白さを紐解いていこうと思う。
本作でまず目を引くべきは、各キャラクターのバックグラウンドを丁寧に描き、彼らが血なまぐさい戦いを経ていくなかで、自身が負ったトラウマや傷を拭い、葛藤に苛まれる姿を表現している点だ。
主人公となるエドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックだけでなく、彼らの味方となるリザ・ホークアイやアレックス・ルイ・アームストロング、敵役となる傷の男(スカー)、ホムンクルスのラストやグリードらも同様だ。物語が進むにつれ、彼らは自身の行動や過去を顧みて、葛藤に苦しみ、それぞれに選択することになる。
まるで人間的理性と動物的本能が激しく揺れ動くような描写は、エドとアルだけでなく、彼らを厳しく見守る師匠のイズミ・カーティスやロイ・マスタング、時には敵役・悪役として描かれるキャラクターらにも同じように表現されてきた。
キャラクターのバックボーンをしっかりと描くことは、各個人の考えや信念を固めることに繋がるからこそ、彼らは策略や推察など理性的に思考を試みながら、自分からみて到底許容できない相手とみれば、とっさに否定してしまうこともある。こうしてやどる人間味は、見るものをひきつけて止まない。
主人公側だけでなく、敵側・悪役側のキャラクターのバックボーンをも積極的に描いていく作風は、「悪にも悪なりの考えや気持ちがある」という解釈を広めたともいえよう。同時代には『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』といった少年マンガにも同様の作風が見受けられ、『僕のヒーローアカデミア』『鬼滅の刃』へと至るまでになった。単なる勧善懲悪なストーリー形式からは一線を画し、2000年代以降という時代背景にも合致していたともいえよう。