TVアニメ『メダリスト』で注目された“モーションキャプチャー” “ロトスコープ”と比較考察

TVアニメ『メダリスト』で注目された“モーションキャプチャー” “ロトスコープ”と比較考察

 第2期の制作も決定した2025年冬アニメの『メダリスト』。各キャラクターの置かれた境遇や葛藤が熱を帯び、視聴者から様々な感情が「見なよ(…俺の司を…)」とばかりに溢れ出た。実際の試合では見られないようなアオリのアングルで、フライングシットスピンもダイナミックに描かれるなど、数々の演技シーンでGOE(出来栄え点)が加わること必至の映像美だった。

 映像制作技術が進歩するたびに、作品ジャンル(※1)の境界線が揺らぐ。それは同時に従来の慣例を再考する機会を与えてくれる。本稿では『メダリスト』でも注目されたモーションキャプチャーを、改めてロトスコープと比較してみたい。

2Dの印象が強いロトスコープ 2D限定の技術ではなかった?

【メダリスト】スケートリンク特別企画「モーションキャプチャー撮影見学編」|2025年1月4日より放送開始

 モーションキャプチャーと聞くと、実写カメラの前で演者が黒いスーツを着ている画を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。黒いスーツの各所には身体の各部位の位置を示すマーカーがついており、演者の動きが3Dツールのキャラクターにリアルタイムで取り込まれる仕組みになっている。

 『メダリスト』ではプロフィギュアスケーター・鈴木明子が演技の振り付けを担当したことも話題になった。カメラを複数用意し、キャプチャーツールで位置情報を検知して鈴木の動きを取り込んでいる(このほかキャプチャーツールとしては、スーツやマーカーも要らないもの、録画からでも取り込み可能なものなども増えてきた)。

 モーションキャプチャーと似た技術であるロトスコープは、撮影した実写の動きをリファレンスとして、1枚1枚2Dとして最適化していく技術である。2024年度前期のNHK連続テレビ小説『虎に翼』のタイトル映像や同じく2024年の長編映画『化け猫あんずちゃん』でも注目されたのも記憶に新しい。

映画『化け猫あんずちゃん』<実写・アニメ比較特別映像>【2024年7月19日公開】

 ロトスコープはモーションキャプチャーに似ているというよりも、実写の動きをキャラクターの動きのリファレンスにするという用途においては、モーションキャプチャーと同じである。実写の動きへの対応という点では本質的に同じではあるものの、3Dと2Dといったアニメーション作品のジャンルの出自や来歴によって、これまで別個のものとして扱われてきた。

 なおロトスコープでは、演者の輪郭までトレースすることまで含まれがちだが、あくまでも演者の動きをリファレンスとすることに主眼が置かれている。演者と体型が近いに越したことはないにしろ、『化け猫あんずちゃん』でも、リファレンス元の演者・森山未來とあんずちゃんでは、まるで体型が異なっていることから分かるだろう。

 とはいえ、3D映像においてもロトスコープが使われる場合もあることまで知っている人は少ないかもしれない。1988年の発売から長く愛され、2016年に開発が終了した3Dツール・Softimageのマニュアルにロトスコープが明記されていた(※2)。それによると、実写をリファレンスにしてキャラクターを3Dモデル化することまで含まれている。

 ちなみにロトスコープを知る際には、ロトスコーピング(※3)について調べておきたい。例えば3Dツール・3ds Max 2024のマニュアルにある用語集からも確認できる(2025年版からは用語集そのものが未掲載)。そもそもロトスコープは英語なので、MayaやBlenderなど他の3Dツールも英語の解説まで含めて調べてみると、より理解が深まるのではないだろうか。

3Dデッサン人形で描けるポーズの幅を増やそう by Dadotronic|CLIP STUDIO PAINTおすすめ機能

 このほかイラスト制作ソフト・CLIP STUDIO PAINTの機能を例にすると、2Dツールではあるが3Dのデッサン人形が付属している。3Dのデッサン人形にポーズをつけながらリファレンスとして作画していけば、理屈としてはロトスコープということになる。

【1分解説!やってみたいができる】モーションキャプチャーで動画を作ろう | Character Animator - アドビ公式

 モーションキャプチャーは3Dだけでなく、2Dの制作にも応用が効く。例えば2Dアニメーション制作ツール・Character Animatorでは、実写をリファレンスとしてキャラクターのイラストをアニメーション化することができる。各関節にマーカーを入れることによって(リギング)、リアルタイムで実写の人物の動きと連動させる(録画後の細かい調整はAfter Effectsで行う)。

 こちらは2Dでもカットアウト(切り絵)と呼ばれる作品ジャンルで、現実世界ではコマ撮り(ストップモーション)で行われているものを、デジタル空間で模擬的に再現するかたちになっている。各部位をパーツに分けて動かすため、パーツアニメーションとも呼ばれている。むしろアニメよりも、ゲームやVTuberなどで観慣れている人が多い技術ではないかと思う。

【After Effects】1分解説!さらに進化したロトブラシで直感的にマスクを作成しよう | アドビ公式

 アニメーション制作における撮影(コンポジット)でもおなじみのAfter Effectsでも、カットアウトの制作は行えるが、ロトブラシという機能があるのも知っておきたい(ロトブラシのロトは、ロトスコープに由来しているのが見て取れる)。

 ロトブラシを使うと、動画から人物などの動いている対象物を切り抜くことができる。ただ、こうした技術が使われている動画は、MADムービーやネットミームで見かける機会が圧倒的に多いように思われるので、詳しいことは割愛する。

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