『大豆田とわ子と三人の元夫』はラブコメ? ホラー? 描かれない存在が意味するもの

『まめ夫』はラブコメかホラーか

 思い出すのは、同じ坂元裕二脚本のドラマ『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)だ。未成年の時に少女を殺した殺人犯・三崎文哉(風間俊介)が社会復帰をして生活をする中で、もう一度、人を殺めてしまうのではないかとハラハラしながら観ていた時は、いつ、自分を殺すかわからない人間と一緒に生きていくことはできるのだろうか? というテーマを扱っているのだと思った。物語後半になると文哉がもう一度殺人未遂を起こすことでテーマが変わってしまうため、殺人犯に象徴される「悪との共存」というテーマは遠のいてしまったが、ラブコメとホラーの世界が入れ替わりながら話が進んでいく『まめ夫』を観ていると、相容れないものが共存している世界を、坂元裕二は描こうとしているのではないかと思えてくる。

 だが、その相反する世界は物語の上では共存しつつも、お互いの世界の住人からは見えないものとなっている。

 『まめ夫』を観ていると、本来描かれるべきものが画面に登場しないことが多いことに驚かされる。この第8話でいうと、小鳥遊が慕う「社長」と「お嬢様」の存在がそうで、二人は会話の中にしか登場しない。

 これは亡くなった綿来かごめ(市川実日子)や、松林カレン(高橋メアリージュン)の母親にしても同様で、会話には登場するが、画面に登場しない人物が本作にはあまりにも多い。

 その意味で興味深かったのが、とわ子のマンションに三人の元夫が訪れた際に、小鳥遊の姿が隠されてしまう場面。プライベートの小鳥遊は、とわ子以外の人からは認識されておらず、オダギリジョーのふわふわした佇まいもあってか、まるで幽霊か天使のようで、最終的にとわ子にしか見えない存在だったと言われても思わず納得してしまいそうである。

 不在の人物や見えない存在の物語を「見せないこと」によって描こうと腐心していることが『まめ夫』の特殊性だが、そもそも小鳥遊の場合は自分というものが極端に欠落している。だが、かごめとの約束に縛られ、社長業にこだわっているとわ子も、それは同様で、評価軸を他人に預けているせいで「自分が欠落している」という意味において、やはり二人は似たもの同士なのだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『大豆田とわ子と三人の元夫』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週火曜21:00〜放送
出演:松たか子、岡田将生、角田晃広(東京03)、松田龍平、市川実日子、高橋メアリージュン、弓削智久、平埜生成、穂志もえか、楽駆、豊嶋花、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、岩松了ほか
脚本:坂元裕二
演出:中江和仁、池田千尋、瀧悠輔
プロデュース:佐野亜裕美
音楽:坂東祐大
制作協力:カズモ
制作著作:カンテレ
(c)カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/mameo/
公式Twitter:@omamedatowako

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる